この素晴らしい探索者に寝る場所を!

「どう、すごいでしょ? ヨグパンチ」


「「は、はぁぁぁぁぁぁ!?」」


 二人の驚いた声が草原に響きわたる。


「なんだあのバカげた火力!?」


「ちょ、ちょっと! 私あんなスキル知らないわよ!?」


 そうだろう。もっと褒め称え(?)たまえ。


 そんな風にドヤっていると、一つの重大なことに気付いた。


「あ」


「「あ?」」


「クエスト受注してないから報酬もらえない......」


「「うわぁ......」」


 そ、そんな残念な子を見る目で私を見るなよぉ......。


□■□■□■□


「で、だ」


「うん」


 あの後、近くの酒場に場所を移した私達ってか私は、勧誘を受けていた。


「正直この駄女神と最弱職の俺だけじゃあ魔王討伐は無理だ」


 うん、だろうね。


 いくらアザトースじゃなかろうが、一つの世界で魔王張れるんだから大分強いはずだもんね。


 あ、ちなみにアクア様は話の腰を折ることが容易に予想されたので、お酒を渡して別のテーブルで飲ませている。


「そこで、俺達は仲間が欲しいわけだ。それもとびきり強いな」


 ふむふむ。


「どうだ? 俺達のパーティーに入ってくれないか?」


「いいよ」


「まぁそりゃあ断るとおも......ては?」


「だからいいって」


 いくら私が探索慣れしてて強いっていっても一人は危険だからね。


 神話関連の事件でソロプレイをするのは死を意味するまであるレベル。


 それに......


「正直こっちから言うのもあれだがもっと条件が良いパーティーが見つかると思うが、なぜ?」


「そりゃあ君達が面白そうだからだよ」


 これが一番大きな理由だろう。

 この二人と一緒にいると、面白いとことになる気がするんだよね。

 私の前世は神話生物ニャルとか邪神ニャルとか愉快犯ニャルのせいで、それはもう刺激に満ちていた。

 そのせいか平和ボケした退屈な人生なんて耐えられる気がしない。

 折角なら愉しく暮らしたいじゃん?


「そ、そうか......おいアクア! 仲間が増えたぞ!!」


「うっそマジで!? やるじゃんカズマさん!」


「なーっはっは、そうだろうそうだろう」


 うわぁ、大分調子乗りやすいタイプだな~。


 でも知ってる? 大成功が起きた後は、大抵大失敗ファンブルになるんだよ?


「さぁサツキ! 今日は俺の奢りだ! じゃんじゃん飲めよ!」


「ホント!? 流石はカズマ! 太っ腹~」


 ま、いっか。ご飯奢ってくれるいい人だしね。


□■□■□■□


 翌日、さらなるメンバー補充をするために昨日から貼ってある張り紙がついに効果を出した。


 ......正直あんなブラック企業の定型文みたいな張り紙で人が来るとは思わなかったよ。


「募集の張り紙を、見させてもらいました」


「「「おぉ!」」」


 やいのやいの言い争ってた二人がバッと顔を上げ、訪問者の方を見る。


「えーと、お名前と職業を教えてくれる?」


 一応フォローを入れる。


 交渉系の技能は便利だからあらかた揃えてある私に死角はない。


「我が名はめぐみん! アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法......爆裂魔法を操るもの!」


 ふーん、最強の攻撃魔法か~。良いじゃん強そうだし。


 そんな風にちょっとルンルン気分な私とは反対に、カズマ達はうわぁみたいな顔をしていた。


 ......なぜに?


 あ、そういえば2、30回一緒に事件を乗り越えた子でこんな感じの人いたな~。


 結局本当に深淵を覗きすぎてSAN値直送→精神死しちゃったけど。


 このロリっ娘がそうならないことを祈ろう。


 それからしばらく話していると、彼女がお腹をすかしていることがわかった。


 お、これ私の出番じゃない?


 料理は製作芸術共に高い技能を持ってるから3つ星シェフも顔負けの料理を作れる自信がある。


「まぁまちなよカズマ。昨日私が大量に食べたからお金は厳しいでしょ?」


「あ、あぁ。正直な」


「ならここは、私の手料理を食べさせてあげようじゃないか」


「え、なに、お前料理なんて作れんの?」


「ふふーん、当然じゃない?」


 神話生物関連の事件で出される料理は毒やらなんやらいろいろてんこもりなことが多いからね、自分で作れないと安全すら保障されない。


 ……まぁ食べ物事態に細工されてることもあるっちゃあるんだけどね。


「あ」


「「「あ?」」」


 そこで私は、超大切なことに気が付いた。


「キッチンがない……」


「「「あぁ……」」」


□■□■□■□


 結局酒場の厨房を貸してくれることになった。


 ありがとう(どこがとは言わないけど)大きいお姉さん。さっきは睨んでごめんね。


 さてと、私たちが持ってる食材はっと……


『カエル肉(足)』×20


『カエル肉(胴体)』×5


『カエル肉(頭)』×5


 ……………………カエルしかねぇ。


 ま、まぁ私には調味料という強い味方が……


『塩(岩塩)』×少々


 以上。


 ……どうしろと!?


 いやでも料理の巨匠はいっていた。塩を使いこなすものが料理を制すと……


 こうなったらやってよろうじゃねえかよこのヤロー!


 さいっこうに美味しい料理作ってやんよ! カエルと塩だけで!!


 こちとらニャルに料理振舞ったことすらあるんだぞ! それ比べりゃこの程度余裕だよ!




「おまたせーっと」


「「「おぉ~!!」」」


 ウエイターさんがよくやるみたいに腕の至る所にトレーをのっけて一度に全部運ぶ。


 これ結構難しくて本場のメイドさんに弟子入りして貰ったんだよね。


 ……アレはホント怖かった。何があったかはご想像にお任せするよ。


「右から『カエル肉の炭火塩焼き』『カエル肉のスープ』『白ご飯』ね」


「おぉー、うまそ……って全部カエル肉じゃね、っておい最後! そこまでいったら統一しろよ!!」


 流石カズマ、ナイスツッコミ。私が欲しがってたことを全部言ってくれる。


「こ、これ……全部食べていいんですか……?」


「もちのろん! そのために作ったんだから」


 めぐみんは控えめにそう聞いてきたので、グッとサムズアップしながら返答する。


「「「いただきまーーす!!」」」


「どうぞ召し上がれ」


 がつがつむしゃむしゃ。そんな効果音がピッタリなぐらい豪快に食べていく3人。


 そしてそこからはすごいいい匂いが漂っていて、しかも3人は本当においしそうに食べるもんだから……


「おい、俺にもあいつらと同じのくれ!」


 みたいなことを周りの冒険者たちがウエイターさんに言っていたが、当然


「すいません、あれはあちらのお客さんが自分で調理したものなので、私たちがお出しすることは出来ません」


 こうなるわけだ。ふっ精々空腹を我慢するといい。


「はっ!?」


 その時、私に電撃が走った。これだ。これしかない。


「アレを食べたいかた! 1人前1万エリスでお造りしまーす!!」


「「「「1万!? 高すぎだろ!?」」」」」


 ふっふっふ、たしかにこれだけじゃ買わないだろう。


 だがしかし、私には強い見方が付いているのだ!!


「みんな、全力でおいしそうに食レポして」


「「「……」」」


「……1人1割売り上げを献上しよう」


「「「のった!!」」」


 くっ、商売上手め!


「このカエル肉の炭火塩焼き超うめえ!? カエル肉のジューシーさと程よい硬さに炭火焼き特融の香りが染み込んでカエル肉唯一の欠点である『味の淡白さ』が完全に消されてやがる!! しかも適度にまぶされた塩のおかげで飽きも回らない!!!」


「おまけに白ご飯が最高に進むわ!!」


「何を言ってるんですか皆さん、このカエル肉のスープを忘れてはいけませんよ……! この繊細な味わいの中にある深み、そして具材はカエル肉、味付けは塩だけだというのに飽きがこないという驚異のおいしさ。やはり通にはこちらですね」


「「「「「ゴクリッ」」」」」


 ふっふっふ、よくやった2人とも……え、真ん中のなんか髪が青いひと? いやあの人ほぼなんもいってないじゃん。


「では改めて、一杯2万エリスです♪」


「「「「「買った!!!!」」」」」


「「「ね、値上がりしてる……」」」


 仲間達以外は気付かなかったみたいだね。値段が2倍になってるという事実に。


「まいどありー!」


□■□■□■□


「んー! もうかったなー!!」


 あの後会計の時に値段が2倍になったことを知ったその他大勢達が唖然としてたけどちゃんと2万エリスっていったし、食べた後だから誰も文句は言えなかった。てか言わせなかった。


 3人がうわぁっていう目でみてくるけど気にしない。


 ちなみに現在時刻、朝9時である。


 食べまくった後にそのことをしったその他大勢達が(以下略)


 3人が(以下略)


 ちなみに3人はそのことにちゃんと途中で気付いて切り上げていた。えらい。


「でだよ……」


「お、どうした? 沙月」


 あの後めぐみんの力を見てみようってことでクエストを受けることになった。


 うん、ここまではいい。ただ……


「なんでまたカエルなんだよぉぉぉぉぉ!!!!」


「っ~~! っるさいわねー、別にいいじゃない。もうカエルごときに遅れはとらないわよ!」


 あ、そうですか。もう未来見えたわ。うん。


 どうせあれでしょ? また食われるんでしょ? この人。


 んで私とカズマがまた救出に行くと……はぁ。


「ふっふっふ、何を心配してるのですか皆さん……」


 お、めぐみんが何やら自身ありそうな顔をしてる。


「カエルなど、何匹いようが私の爆裂魔法で一撃です!」


 なんという自信、これは期待ができる。爆裂魔法とか名前だけ聞いても強そうだし。


「めぐみん! お前だけが頼りだ!!!」


「そうそう! 期待してるからね!!!」


「ふぇ? ど、どうしたのですか……二人そろってそんな褒めて……」


 あ、照れてる。超かわいい。


「まぁ見てなさい! お2人の期待に応えて見せましょう!!」


「「おぉ~!!」」


 私たち3人(と1柱)は、意気揚々と草原へと向かっていった。


□■□■□■□


「きゅう……」


 私たちの目の前には、前のめりに倒れ、動かなくなっためぐみんがいた。


「「め、めぐみーん!」」


 途中まではよかったのだ。途中までは。


 めぐみんの爆裂魔法が私たちの期待を裏切らない勢いで大爆発を起こし、2匹のカエルを粉微塵にした。


 その時は私とカズマ2人が黄色い悲鳴を上げめぐみんに抱き着いたりもした。


 それぐらい素晴らしい威力だったのだ。


 だけど次の瞬間、私たちに挟まれて抱き着かれていためぐみんがするするっと落ちていき、パタンと倒れたのだ。

 この子、やっぱ頭のネジぶっ飛んでるな……かわいいかもしれない。


 その結果私とカズマが抱き合ってるみたいな形になり、木の実拾いから帰ってきたアクア様が勘違いしたりしたがそこはまぁ割愛しよう。


 で、今に至るというわけだ。


 アクア様の誤解を解いていると、こっそり近くに来ていたカエルにめぐみんが食われた。


「「め、めぐみーーん!!」」


 そしてめぐみんの仇! と突っ込んでいったアクア様もカエルに食われた。


「「あぁ、やっぱり……」」


 しかしそれはそうと前世では「探索者仲間で一番頭おかしいヤツ」という大変不名誉な称号を受けていた私が常識人枠してるとかこの世界やっぱヤバイな。


「はぁ、カズマさんや」


「なんだい沙月さん」


 2人で顔を見合わせてこくりと頷く。


「「……やるか」」


 とぼとぼとめぐみんを食べてるカエルに私、アクア様にカズマが歩いていった。


 今回は中にめぐみんがいるからヨグパンチは使えないし普通に戦うか、はぁ……


 サクッと倒した後、カズマと顔を見合わせ今日何度目かわからないため息を同時に吐いた。


□■□■□■□


「カエルの中って、案外ぬくくて気持ちいいんですね」


 そのセリフを聞いたとき、私はちょっと衝撃を受けていた。


 ここまでプラス思考な人私の仲間でもそうそういなかったぞおい。すごいなめぐみん。


「じゃあ俺たちこっちだから。また明日な、お前ら」


「ん~」


「さようなら、カズマ」


 あいさつされないアクア様かわいそう。まあしないけど。


 しばらくてくてくと歩いていると、私は重要なことに気が付いてしまった。


「あ、そういえばめぐみん」


「? なんですか?」


 ちなみにめぐみんは今途中で私が買ってあげた串焼きをはむはむと齧っている。かわいい。


「めぐみんって今どこに住んでるの?」


「普通の宿ですが」


「泊めてもらって、いいかなぁ?」


「……は?」


 実は私、宿がないのだ。


 かといってカズマ達みたいに馬小屋で寝るのはヤだし、かといってもう夕方になった今から宿を探すのもだるいし、そうだ。めぐみんに泊めてもらえばいいじゃん! ということである。


「実はかくかくしかじかで……」




「というわけなんだよ」


「いやなにがですか、まだかくかくしかじかとしか言ってないじゃないですか」


 そこに気付くとは、やはりお前天才か。


 これはINT18だね、間違いない。


「まぁ簡単に言うとないんだよ、泊まるところが」


「は、はぁ。まぁいいですけど……シングルですよ?」


「あ、そこは大丈夫。めぐみんちっちゃいから」


「おい貴様その言い方だと私だけがロリッ娘みたいじゃないか。あなただって同じぐらいでしょう?」


「私は21だから!」


 この説明、するの自分で悲しいんだけど。


「はっはっは、は?」


「だから! 私は!! 大人なの!!!」


「マジですか」


「マジです」


 リアルロリのめぐみんにまで言われるなんて……悔しい! でも(ry


「いいじゃん、同じベットで寝ようよ」


「そこは床で寝るっていうところじゃないんですか……?」


「やだよ床なんて、硬いし」


「メリットは?」


「え?」


「だからメリットはないんですか? 初対面の女性と一緒に寝るのは流石に抵抗あるんですけど……」


 なんだ、そんなことか。


 それなら確実なのがあるから安心だね。


「私と一緒に寝ると、毎朝あの美味しいご飯が食べれます」


「ようこそパートナー、今日からよろしくお願いします」


 ね?


 てなわけで、私は無事寝床を確保したのであった。


□■□■□■□


 その夜……。


「ちょ、ちょっと、なんで抱き着いてくるんですか!?」


「ふふーん、抱き枕♪」


「ふぇっ!?」


「ふへへーよいではないかよいではないかー」


 みたいなやり取りがあったとかなかったとか……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る