エピローグ
先ほどから降っていた雨が降っている。雲の切間から日差しがのぞいているし、きっと通り雨だろう。
ぼくは濡れたアスファルトの上を歩いていく。
片手には白い花。それはなんとかっていう名前の花の束。
傘を差し、歩いて、ぼくはその場所に来た
。
信乃メイと、墓跡にには掘ってある。
ぼくはメイの墓に花束を添える。
傘を閉じ、彼女のことを見つめる。
どこを見渡してもメイの幻影を見ることはもうなかった。
ぼくは手を合わせ、瞳を閉じ彼女を悼む。
きっと、これぐらいならいいだろう。自分を許せる気がする。
しばらくしてから、その場を立ち去ろうとしたとき。
彼女に墓に訪れる見知らぬ初老の男に出くわした。ずいぶん見窄らしい格好をした老人で若い女を買える立場の人間には見えなかった。
「彼女の友人ですか?」
ぼくが老人にそう聞くと老人はワナワナと震えたかと思うと泣き出してしまった。
「私はッ……! その子を轢き殺したッ! トラックの運転手です!」
彼は己の罪を告白してその場に泣き崩れてしまった。
おいおいと、見ているこっちが不憫になるほどに、彼は泣いていた。
ぼくは彼のそばにより、彼の肩を抱いた。
彼が泣き止むまで背中をさすってあげた。
それから。
「行きましょう。雨は止みました。少しお話しでも」
ぼくは老人を立たせると彼を支えながらあるき出した。
雨は止み、ペトリコールが大気に香る。
ぼくの世界はぼくたちのことなんかお構いなしに、当たり前の日々を繰り返している。
何もおかしいことのない普通の世界でそれぞれの人生が流れている。
雨の止んだ道を未だ泣き崩れそうな老人に連れ添い歩いていく。
メイの墓に背を向けて、晴れの日を。
異世界ではあえない 葉桜冷 @hazakura09
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます