第1話 (5)
天空を貫くように赫い瞬きが迸る。
12階層のドラゴンも、このダンジョン自体すら吹き飛ばすように赫は炸裂している。
「は―――、ハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!」
彼女の笑い声が聞こえる。
曇天すらも吹き飛ばさんとするような高らかな声だった。
「外だ! 外に出たぞ! 俺はもう自由だ!」
中空で彼女は高らかに叫んでいた。
この世界を統べるものは自分であるとでも言いたげなテンションだ。
彼女に遅れて、ぼくもダンジョンの外に出てきた。
ドラゴンどころかここ近辺の山々自体が吹っ飛んでいるように見える。
そういえば、委員長は無事だろうか? ぼくは周囲を見やる。
あ、遠くに見えた。
「リナリア」
「あ⁉ なんだよ!」
「ちょっとあっちまでつれていってくれない?」
そういうとリナリアは詰まんなそうな顔を作って人差し指をクイと動かした。
「うおわ」
体が宙に浮いたと思ったら直線的に加速した。
びっくりした。勢いよく目的地まで飛ばされてしまった。
勢いがよすぎたせいか、カラダから滑り込むように地面にスライディングして、そこら中痛んでくる。
まあ先ほどの死にかけの痛みに比べたらいいかとぼくは立ちあがる。
ぱんぱんと、カラダについた埃をはらい。
「やあ」
と、委員長に挨拶をした。
彼女は目を丸くしてぼくのことをみている。
「どうかしたかい?」
「いや、だってお前……ッ!」
委員長が何かを言おうとしたとき、顏を苦悶に歪めた。
よく見ると彼女は足からだらだらと血を流し続けていた。
「リナリア!」
「今度はなんだよ!」
「ちょっと降りてきてよ!」
不服そうにリナリアは降りてきた。案外素直な奴なのかもしれない。
「きみ、他人の怪我も直せたりする?」
「出来るぜ!」
「じゃあ彼女の怪我を治してくれ」
「はぁ~? 嫌だね! なんだって俺がお前の言いなりになって知らねえ奴のために力なんか――」
そういうことも、なんとなくわかってはいた。
いたので、ぼくは近くにいた兵士に頼んで剣を貸してもらった。
「? カイ、お前何を? 俺は剣なんかじゃあ傷つかないぜ」
「それは知ってるし、ぼくはきみを傷つけたりしないよ。けど、いうことを聞いてくれないと、こうだ」
こういう場合、イニシアチブをとるのが大事なのだと、何かの本で読んだ。
死にかけの痛みは既に体験したので、特に恐怖心はない。
ぼくはためらいなく首を剣で切った。
たくさんの血が噴き出す。
「おおおおおおおおおお前! 何してんだ⁉」
即座に疵口が赫く煌めくのでそのたびに切りつける。
「お前! 俺はまた完全体じゃないんだぞ! お前が死んだら!」
「また封印されかねないんだろう? だからこうしてるんだ」
愕然とした顔をリナリアはした。
あんな暴れん坊全開な雰囲気を出していたとは思えない。
結局、リナリアは委員長とそれから負傷したクラスメイト達と兵士の怪我も直してくれた。
「なぜ! それが! 歴史書に記されたモノがそこにいるのだ⁉」
全員の負傷を治して、リナリアがぼくに威嚇行動をとり始めた時、聞いたことがある声が聞こえた。
「誰だっけ?」
「この国の王様だよぉ!」
委員長が教えてくれた。
そうか。全然覚えてなかった。昨日会ったっけ?
「そこな精霊は千年前の厄災の一部だ! ダンジョンの最奥に封印してあったのにどうしてその封印が解かれている!」
王様はずいぶんと慌てふためいている様子だった。肩で息をしているし、ここまで急いできたのだろう。裏山が吹っ飛んだのだから、当然か。
「ぼくが解きました」
ぼくは正直に答えた。
「殺せぇ!」
理不尽な命令が下った。
とはいえ、さすがは王様。決断が早い。きっと良い為政者だったのだろう。
「おいカイ! どうする? こいつら殺すか? 俺はいいぜ?」
「ぼくはよくない。人殺しにはあまりなりたくないな。この場は逃げよう」
赫い光があたりを覆った。
気が付くと、だだっ広い草原の真ん中だった。
風がふき草が揺らめき、冷たさが頬を撫でた。
「これからどうしようか?」
ぼくは独りごちた。
どうにも王様は冷静さを欠いていたように見える。
彼の頭が冷えるまで王宮らへんには戻らないほうがいいだろう。
「なら俺の体を探してくれよ」
そう、リナリアは言った。
「カラダ?」
「ああ、千年前に封印されたとき、俺の体は6つに分断されてしまってな。右手右足左手左足、それから心臓。それが俺には足りていないんだ」
「……五体満足に見えるけど」
「それはお前、俺が精霊だから自分の体を縮めてそう取り繕ってんだよ! とにかく! 俺は完全体じゃない。だから俺は自分の体を取り戻しに行きたいんだ。そのための旅をする。付き合えよ」
そういうと悪戯っ子のような笑みをリナリアは浮かべた。
ぼくは空を見た。
異世界の空は現実のそれに近く、曇天で、まるで蓋をしているみたいだった。
「いいよ。ほかにやることもないしね」
そう、ぼくは答えた。
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