第1話 (3)
王宮からほど近い山のくぼ地。そこから降りていくと、
何階層にも連なるその大穴を異世界人たちは下っていく。
「この下の階層12層にドラゴンの巣があります。ここ最近は町に現れ、人々を襲っているのです。皆さんにはアレを退治していただきたい。健闘に期待しています」
というのが付き添いで着いてきた兵士の言だった。
クラスメイト達は既に各々、精霊との契約を行っていた。
王宮そばは精霊がたくさん湧くらしい。
まあ、ぼくのようにまだ精霊に気に入られなくて契約できないものもいて、それでもダンジョンに送り込まれていたりする。働かない人間は置けないらしいので使えなくても現場に投入するそうだ。現実みたいに世知辛い。
現在、第2階層。
「雑魚モンスターが出たぞ!」
「みんな! 背中を合わせて! 攻撃開始!」
そう叫んだ委員長の髪と瞳が黄色に染まる。
他のクラスメイト達の色もまた変質していく。
精霊と繋がること。それは世界とつながること。
世界そのもの力を限定的とはいえ行使することだ。
それぞれの属性に合わせて、炎やら水やら土隆やらの攻撃がモンスター(便宜上そう呼んでいる。詳しくは厄災によって発生した云々……)を攻撃していく。
一方的に決着はつく。
雑魚モンスター相手だと、こんなに簡単なのだと感心したりしてみる。
「よゆーじゃん! これならすぐ帰れるかもな!」
「てかダンジョンつっても雑魚しかいねえし! またオレなんかやっちゃいました!」
げらげらと笑いながらクラスメイト達は奥に進んでいく。
ドラゴン討伐というよりも、遠足に来ているみたいな雰囲気だった。
ぼくも、彼等契約組の後ろをついて歩く。
その後も次々とモンスターを一蹴、一掃していく。
だんだんと、契約している彼らの態度や声が大きく成る。
そうして呼び寄せられたモンスターたちを倒していく。
なかなか次の層に続かないな。とは思う。
とはいえ、戦えない身でなにかいうことはできないし、いう気もない。
ところで缶コーヒーが飲みたい。どこかに自販機とかないかな?
「もう! みんな! 静かにして! 早く次の階層に――」
委員長が言い終える前に、ダンジョンを大きく襲うような轟音が響いた。
地面だったと思っているものの下には空洞があることを今更ながら思い出した。
それと目が合った。
なんというか、パブリックイメージと大してかけ離れていない。
大きくて羽の生えたトカゲが火を噴いている。
まさにドラゴン。聞いていた姿かたちと同じものだ。
奇しくも、感心してしまった。
12階層から2階層までこのドラゴンが貫いて飛び出してきたのだ。
「ぜ、――全員! 戦闘態せ――きゃあ!」
岩盤が、床が、地面が次々と亀裂を作り崩れていく。
委員長が亀裂に落ちそうになっていたので、ぼくは駆けよって彼女を突き飛ばした。
なぜそんなことをしたのかって?
さあ? 少なくともぼくが善人だからってわけではないと思う。
「唯漣くん⁉」
実際、委員長も悲痛というより驚愕といった声を出しているわけで。
ぼくは、亀裂から、落ちていく、墜ちていく。
3階層をこえ、4階層をこえ、さらには12階層すらも超えて――。
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