第885話 いわゆるアサシンって人のことだね!?

「なるほど、我ら第3小隊がワイズ様方と共にベイフドゥム商会に踏み込み……」

「第4小隊の私たちは外側から包囲し、裏口等から逃亡を図る者の捕縛に当たるわけですな?」

「ああ、そして怪しい動きを見せる者がいたら、1人1人身元の確認を怠らないように注意してもらいたい」

「「ハッ! 必ずや!!」」


 第3と第4小隊の隊長さんたちにワイズが指示を出しているところだ。

 そして聞こえてきたとおり、ワイズを先頭に俺たち4人と第3小隊の皆さんがベイフドゥム商会の本店に乗り込むことになる。

 ちなみに、ベイフドゥム商会とは関係ない一般のお客さんたちに迷惑がかからないよう、開店前に乗り込むつもりだ。

 いやまあ、事情を知らない領民の皆さんからすれば「せっかく今まで家計に優しい調味料を買えていたのに……」って不満の声も上がってしまうことだろう……

 でもね……これは命に関わる問題なので、よろしくご理解いただきたいものである。

 また、敵対派閥などメイルダント家の弱体化を図りたい者たちからすれば、これは絶好の機会となるはず。

 そういった領民の反乱を扇動しようとする輩なんかに対しても、これから厳しく取り締まっていかねばならないだろう。

 となると、平時に警邏を担当していた衛兵の皆さんだけでは手が足りなくなることが予想される。

 そこで、応援としてメイルダント領軍の皆さんも駆り出されることになり、しばらく忙しい日々を送ることになってしまいそうだね。

 しかもそれだけじゃなく、街の人々の体内に残留しているであろう吸命の首飾りの粉末の除去作業も控えているわけだ……

 うぅむ! これは忙し過ぎる!!

 まったく、マヌケ族の奴らもクソマヌケな連中のクセに……後々まで面倒を引っ張る作戦を企ててくれたものだよ……

 ふむ……こんな作戦を実行しやがったマヌケ族のクソ野郎の顔を一目ぐらい見ておきたいものだ。

 そして、「やりやがったな、この野郎!!」って気持ちと迷惑をかけられた領民たちの心情を代弁して、マヌケ族のクソ野郎をこの手でボコボコにして差し上げたいものである。

 まあ、情報を吐かせることができなくなっても困るので、あくまでもボコボコにするだけに留めることになるだろう。

 というわけで、マヌケ族のクソ野郎よ……ギリギリのところでちゃんと回復魔法をかけてやるからな! 安心してボコボコにされるといいぞ!!


「あ、あのぅ……アレスコーチ? 作戦開始前のテンションってことは俺にも理解できるつもりですけど……それでも、一瞬アレスコーチから恐ろし気な波動を感じたんですけど……そんなヤバい状況が起こりそうだって兆候でも感じ取ったんっすか?」

「……ん? ああ、まあ……今のところ危険な反応は特に感じ取れていないが……実力を隠蔽する能力の高い奴がベイフドゥム商会に潜んでいるかもしれないからな……」


 それなりに俺の魔力探知の精度も磨かれてきているとは思うのだが……それでもなお、隠蔽能力に特化したマヌケ族に本気で実力を隠されたら、さすがに見破るのは難しいと言わざるを得ないだろう。


「まっ、俺も手を抜けないことは承知しているつもりでしたけど……なるほど、『物陰に潜んでいた奴からグサリ……!!』なんて事態も警戒しとかなきゃですもんね!!」

「そっか! いわゆるアサシンって人のことだね!? 僕も聞いたことがあるよっ!!」

「なるほど、アサシンですか……ベイフドゥム商会の長がライバル商会の長を狙う目的以外にも、自身の安全のために雇っている可能性も否定できませんね……よし、我々と現場に踏み込むことになる第3小隊の皆もアサシンの存在に気を付けてくれ!」

「ハッ! 抜かりなく!!」

「そしてもちろん、後詰めを担うことになる第4小隊の皆も、どんな危険な存在が平民に化けているかも分からない……甘く見ることのないようにな?」

「ハッ! 徹底させます!!」


 何気なく発していた俺とケインとタム君の会話を耳にしたワイズが、すかさず指示を重ねた。

 これによって、皆の警戒レベルが数段上がったのではないだろうか。

 うむ、安全に越したことはないからね。

 とはいえ、今まで俺が出会ってきたマヌケ族はだいたいこちらを甘く見ており、あまり不意打ちをかましてくる感じじゃなかった気もするけどね……

 しかしながら、マヌケ族の中にだって様々なタイプがいるだろうし、不意打ち大好きマンがいてもおかしくはないはずだ。

 ただまあ、不意打ちはどっちかっていうと正攻法で勝てない側の手段って考え方もあるだろうから、プライドだけやたらと高いマヌケ族が好む戦闘スタイルなのかなってところに疑問もなくはないけどさ……

 ああ、でも……こうやって人間族相手にひたすら暗躍を繰り返しているって段階で、彼らのプライドはズタズタかもしれんがね……


「さて、最終打ち合わせはこれぐらいでじゅうぶんだろう……そろそろベイフドゥム商会本店に向かうとしようか」

「承知いたしました!!」

「直ちに!!」


 ワイズの言葉を受け、第3と第4小隊の隊長さんが隊員たちに指示を出し、全体が動き始める。


「よっしゃ! 俺もビシィッとキメるぜ!!」

「僕も、僕も~ッ!!」

「うむ、鮮やかに任務遂行といこうじゃないか」

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