第880話 中心と言っても過言ではない部分

「ああ、そうだ……これをタム君にも渡しておこうかな……」

「えっ、僕に? 何かなぁ~?」


 食堂へ向かう道すがら、マジックバッグから平静シリーズを1セット取り出した。


「やはり……」

「おぉっ! タムにもか!!」

「こ、これって……今、兄上たちが着ている服……だよね?」

「ああ、そのとおり……『平静シリーズ』って言うんだ」

「平静シリーズ! わぁ~っ、凄そう!!」

「まあ、タムには少し早いかもしれないが……」

「そうだなぁ……俺らだってまだ、最初の3つで慣らしているところだもんなぁ?」

「……3つ? えっと……どういうこと?」

「それについては、これから説明するよ」

「うん! 分かったぁ!!」


 そうして、平静シリーズの効果についてタム君に説明した。

 まあ、仰々しく説明とか言ったけど、実際のところ平静シリーズを3つ以上身に付けたら、シリーズ装備の効果が発動して1つ増やすごとにどんどん魔力操作の難易度が上がっていくってだけのことなんだけどね。

 それから、装備数を増やせば増やすほど、1つ当たりの難易度の上がり幅が大きくなっていくってことは忘れずに言っておかなきゃだね。

 自分の実力を過信してムチャをすると、泣きを見ることになるだろうし……

 いやまあ、実力に見合わない数を身に付けた瞬間爆発するとか、そういう危険なことが起こるわけではないけどさ……

 それでもプライドとか、精神的な面でダメージは受けるんじゃないかと思うからね……

 とまあ、そんなこんなで注意事項などについてもタム君に話しておいた。


「……へぇ、そうなんだぁ……うん、身に付ける数を増やすときは慎重に判断することにするね!」

「タム自身そろそろ数を増やしてもいいかと思ったところで、母上に意見を聞いてみたほうがいいだろう」

「ああ、そのほうが確実だな! やっぱ自分のこととなると、どうしても見積もりが甘くなっちまうもんだからな!!」

「うむ、その点ソニア夫人なら、きっとタム君に的確なアドバイスをくれることだろう」

「そっかぁ……分かった! そのときは母上に相談してみるよ!!」

「よしよし、いい子だ! うりうり~」

「ちょっ! また……っ! ケインさんっ! その、ほっぺたをグニグニするの……やめてってばぁ~っ!!」


 ふむ……ソレバ村とかで似たような場面のとき俺はほっぺたをグニグニするのではなく、子供たちの頭を撫でていたけどな……

 まあ、言葉ほどタム君は本気で嫌がっているようにも見えないから、問題ないのだろうけどね。

 そしてワイズも、「ケインは仕方ないなぁ」みたいな感じで微笑ましそうな表情を浮かべている。

 さらにいうならば、俺たちの後ろをついて歩いてきている使用人のお姉さんたちも、ワイズと似たような微笑みを浮かべているしさ。

 要するに、それだけケインがメイルダント家に溶け込んでいるってことなんだろうねぇ。

 だからこそ昨日、ソニア夫人の口から「ワイズとケインが異性同士だったら……」みたいな言葉が自然と出てきたのだろう。

 そんなこんなしているうちに、食堂に到着。


「……母上はまだのようだな? それとも、もう食事を済ませてしまったか?」

「いえ、ソニア様もこれからでございます。そして、もうそろそろ執務室からこちらに来られる頃かと」

「そうか……まあ、昨日も忙しくて顔を合わせる時間がないかもしれないと言っていたからな……」

「まっ、通常の執務に加えて、今日の作戦行動のためあっちこっちに指示を出すとか、やることが山のようにあるんだろうなぁ……」

「母上……」

「その作戦行動の一つ、もっと言えば中心と言っても過言ではない部分をワイズ……お前が担うことになっているのだからな、重々承知の上だとは思うが……気合を入れて行こうじゃないか!」

「はい、必ずや成功させて見せます」

「おうおう、ワイズ! 指揮官にふさわしい精悍な顔つきになってきてるじゃねぇか! 頼もしいねぇ!!」

「うん! いつにも増してカッコいいよ!!」

「うむうむ……見事な男ぶりだ」


 そんな話をしているあいだ、俺たちの前に食事が並べられていく。

 また、そのとき……


「おはよう、もうみんな揃っているようね?」


 ソニア夫人がいらっしゃった。

 忙しそうだから、正直ご一緒するのは無理めかなぁ……なんてことを思っていたところだったので、お顔を拝見できて嬉しい限りだ。

 とはいえ、忙しい事には変わりないのだろう。

 昨日初めてお会いしたときより、雰囲気がキリッとしておられるからね。

 そんなことを思いつつ、朝の挨拶を交わした。


「4人とも、既に気合が入っているようね……結構なことだわ」

「はい、眠気も覚め、早朝練習により身体もしっかりほぐれていますゆえ、何事が起ころうともじゅうぶん対応できます」

「僕も! 元気いっぱいだよっ!!」

「まっ! あとは作戦開始の号令を待つだけって感じっすね!!」

「大船に乗った気持ちで、作戦成功の報告をお待ちいただければと思います」

「ええ、安心してあなたたちに任せます」


 その信頼に、全力で応えさせてもらいますよ!

 あとは、そうだな……マヌケ族が出て来るかどうか……

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