第879話 それはそれで絶好の修行機会だと捉えて

「これが清潔の魔法で……そして、浄化の魔法はこんな感じだよ」

「おぉ~っ、凄い! 服に付いた汚れもキレイさっぱりだぁ~っ!!」

「これだけで感覚をつかみきるのは難しいことだと思うけど、なんとなくでも参考に覚えておいてくれればと思うよ」

「うんっ! この感じを忘れないよう、できるだけ思い返すようにするねっ!!」


 タム君のこの素直さがあれば、意外と清潔や浄化の魔法の習得も早いかもしれない。

 そんな期待を抱かせてくれるね。

 それから、ワイズとケインはというと……


「……フゥ……なんとか、失敗することなく発動するところまではできるようになりましたが……」

「あぁ……やっぱり、遅ぇよな……もっとこう! アレスコーチみたいに、ピカッ! キラリッ! って感じで、カッコよくキメてぇんだけどなぁ……!!」


 自分で清潔の魔法を使ったものの、効果のほどはまだまだゆっくりとしたペースになっているって感じだ。

 とはいえ、一昨日の初めて清潔の魔法を成功させたときと比べれば、若干ペースが上がっているようには見えるので、全く成長していないというわけではない。

 2人がモチベーションを高く保てるよう、その点について称賛の言葉を贈っておくとしよう。


「そうは言うが、2人とも確実に発動ペースは上がっているじゃないか! 素晴らしい進歩だ、自信を持て! お前らは凄いッ!!」

「アレス殿にお褒めのお言葉を頂けると、深く心に沁みますね……誠、かたじけないことです」

「だな! もっともっと頑張れる気がしてくるってもんだぜ!!」

「……えっ……えぇっ!? あ、兄上……それにケインさんも……『光属性の魔法が苦手』って言ってたよねっ!? いつの間にか、そんなことまでできるようになってたのっ!? ああ、でも……今思い返してみたら2人とも昨日、吸命の首飾りの粉末とかいうのを選り分けるのを普通にやってのけてたっけ……うぅ……そこで気付くべきだったかも……」

「まあ、この移動中、我々はアレス殿にみっちり鍛えてもらっていたからな」

「そうそう! 清潔や浄化の魔法も休憩のたびに何度も見本としてかけてもらっていたしなぁ? ホント、俺たちは恵まれてるってもんだぜ!!」

「えぇ~っ! いいな! いいなぁ~っ!!」

「まあまあ、今日の作戦が無事遂行できたあたりで、もう一度タム君にも清潔や浄化の魔法を見本としてかけてあげるから……ね?」

「う、うん、そうだね……ワガママを言ってごめんなさい」

「いやいや、謝らなくていいさ……むしろ、そんなふうに自身の実力を磨くことについて貪欲な姿勢を持つことは重要なことだと思うからね」

「アレス殿はこう言ってくれているが……誰もが寛大に受け止めてくれるとは限らないことを覚えておいたほうがいいな」

「まっ、俺たちには気楽に接して構わねぇけど……これから相手はちゃんと選ぶようにな?」

「うん、気を付けるぅ……」


 まあねぇ……突然キレだす奴がいないとも限らないし、相手を見極める目を養うのも重要だろう。

 この王国みたいな、ガッツリ身分制度が存在しているところだと特にね。

 といいつつ、子爵家の子息であるタム君に対して気を遣わねばならない人間のほうが圧倒的に多いだろうけどさ。


「それはそれとして……メイルダント家に仕官している魔法士の中にも清潔や浄化の魔法を習得している人がいるだろうから、機会を見つけて魔法をかけてもらいながら感覚を学んだらいいと思うよ。これはもうちろん、回復魔法についてもいえることだね」

「そっか! その手があったっ!!」

「確かに……それも一つの手でしょう」

「う~ん、それはそうなんだろうけど……アレスコーチみたいに相手が感覚をつかみやすいよう調節しながら魔法をかける……なんて器用なことをできる魔法士がどんだけいるかって気もしちまうけどなぁ……」

「むむっ、ケインの言うことも一理あるな……実際のところ私もケインも、アレス殿に教えてもらっていなければ……もっと感覚をつかむのに苦労していたに違いないでしょうし……」

「えぇ~っ……そんなぁ……」

「ふぅむ……そういった魔法の調節能力に関しては、どれだけその人が魔力操作をやり込んでいるかがカギになってきそうだ……とはいえ、仮に感覚をつかみづらい魔法士しかいなかったとしても、それはそれで絶好の修行機会だと捉えて全神経を手中させて感覚をつかみにいくのがいいだろうね……そうすることで、副次的な効果として魔力探知とか索敵系の技術も磨ける可能性だってあるわけだし」

「おぉ~っ、索敵! それは凄いやぁ~っ!!」

「なるほど、アレス殿はそう考えるのですね……そういった意識は、私も見倣いたいところです」

「そうか! 難易度が高いほうが、逆に燃えてくるってヤツだな!!」

「まあ、気の持ちようといったところだ」

「よぉ~し! 気の持ちようだぁっ!!」

「然り……とったところで、そろそろ朝食の時間ですね」

「よっしゃ! 朝練も頑張ったし、これからの作戦行動でも力を発揮できるよう、モリモリ食うぜっ!!」

「うむ……腹が減っては戦ができぬ」

「戦ができぬぅっ!」

「確か……それも焔の国の言葉でしたっけ……」

「さっすが! アレスコーチの焔好みは筋金入りだぜ!!」


 そんなこんなで、俺たちは食堂へ向かうのだった。

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