第877話 取り組みはいつも真面目そのものでしたからね
「やぁッ! たぁッ! とぁ~ッ!!」
「ほうほう……」
タム君が素振りをしている姿から、剣術の腕前がどれぐらいのものか見せてもらっている。
そこで、素直な太刀筋をしているところから、タム君がこれまで剣術の稽古を真面目にやってきたのだろうことが見て取れる。
まあ、昨日風呂に入るときにも、タム君のうっすらと絞られた肉体を見ているので、努力していること自体は想像できていたけどね。
ただ、この素直な太刀筋……言い換えると、剣術の型に忠実な動きを見て「これでは実戦のとき、相手に読まれてしまって使いものにならない」と意見を述べたくなる人がいるかもしれない。
とはいえ、それぐらいキレイに剣を振れているのも凄いことだといえるだろう。
そしてタム君の年齢を考えれば、今はまだ実戦どうこうより基礎的な技術を固めるほうが優先される時期なのだろうって気もする。
それに、メイルダント領はマヌケ族による下らん企てが起こってしまっているとはいえ、モンスターの間引きなどはキッチリとおこなわれており、領地としては安定しているようだからね。
その中で、タム君が慌てて実戦に出る必要もさほどないだろう。
また、おそらくタム君に剣術を指導している人も、そういう方針なんじゃないかと思うわけだ。
「ふぅ~っ……こんな感じです! アレスさん!!」
「なるほど、まだ若いながら見事な太刀筋だったよ」
「ほんとぉっ!? やったぁっ!!」
「確かに、稽古に対するタムの取り組みはいつも真面目そのものでしたからね」
「まっ! 兄弟だけあって、その辺の真面目さはワイズそっくりって感じだな?」
「ふむ、そっくりといえば……ワイズの動きによく似ていたな……いや、兄弟であれば何かと似てくるのも当然だろうが……」
まあ、似ているとはいえ、現段階のワイズの剣はだいぶ実戦寄りになってきているとは思うが……それでも、型の練習をしている姿なんかはタム君とそっくりに見えるからね。
「うん、兄上と同じ人から剣を教わっているからねっ! それに、実際に剣術を教わるようになる前から、兄上の稽古はよく見ていたしさっ!!」
「ああ、そういえばお前は、うんと小さいときからよく私の稽古を見に来ていたのだったか……そう思うと、少々懐かしく感じてくるよ……」
「まぁなぁ……タムにとって、ワイズって兄貴の存在は良くも悪くも一番大きな存在だったってこったろうなぁ?」
「アハハッ! これまでの僕にとって、兄上こそが最大のライバルだったからねっ!!」
昨日の夕食時ぐらいまでにあったワイズに対する思い詰めた雰囲気が消えており、このサラッとした明るいライバル心だけが残っている状態というのは、実にいいことだと思う。
そして、兄上の存在なぁ……
「ふぅむ、俺は親父殿の方針のせいというべきか、兄上とは接点が少なめで育ったからなぁ……でもまあ、この夏は親父殿が王都にいたからということもあって、兄上と急速に仲を深めることができたからそれでいいのだけど……それでも、もっと小さいときから仲良くできていれば、もっと楽しかっただろうなぁとは思わずにいられないね……」
原作アレス君は、孤独な方向に追い込まれていたからねぇ……
まあ、表立って愛情を示すことは難しくても、義母上が気にかけてくれていたってことは感じていたようだし、ギドもいたから、決定的な孤独とまではなっていなかったようだけどさ……
「アレス殿……」
「まあ……家ごとに事情ってのはいろいろあるもんでしょうからねぇ……」
「そっか……アレスさんの話を聞くと、僕と兄上の近さはありがたいことでもあったんだなぁ……」
「おっと! 湿っぽい話はこれぐらいにして、剣術稽古の続きといこうじゃないか!!」
「ええ、そうでしたね」
「よっしゃ!」
「うん! 僕がレミリネ流剣術を教えてもらえる時間は限られてるんだもんねっ!!」
まあ、これから付きっきりで教えられるわけではないし、正式に剣術を教える人が別にいるので、現段階ではレミリネ流をタム君が使うメイン剣術とするのは難しいだろう。
それでも、「こういう技もあるのか!」という剣術的視野を広げることはできるはず。
そうしてレミリネ流に限らず、これから様々な技術に触れていくにつれ、タム君なりの剣術を確立していってもらえればと思う。
というわけで、そんな気持ちも込めつつ、ひととおりの型を教える。
まあ、それだけで完璧にモノにするのは厳しいものがあるだろうことは重々承知しているが、少しでも学びとしてもらえると嬉しい。
「う、うぅ~ん……この短い期間だけでどこまで覚えられるかな……ハァ……学園で毎日教えてもらえる兄上やケインさんが羨ましいよ……」
「まあ、そう言うな……次の長期休暇のときまでにレミリネ流をしっかり学んで帰って、お前にも教えてやるから」
「おう! そんときは俺もバッチリ扱えるようになって、タムをビシバシ鍛えてやるぜ!!」
「俺も、この短い期間で全てを教えきれるとは思っていないよ……そして仮に流派は違っていたとしても、本質の部分はどこかしらつながりがあるだろうし、今タム君が学んでいる王国式を深く理解すれば、レミリネ流の理解にも応用が利くはず……というわけで、日々の鍛錬を怠らないようにね?」
「うんっ! 分かったぁっ!!」
タム君のためにも、ワイズとケインにしっかりとレミリネ流を教えなきゃだ。
こりゃ、教える側の俺も気が抜けないね!
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