第66話:受け継がれるもの




 タイテーニアが、玉のような元気な男児を産んだ。

 髪や瞳の色はタイテーニアに似ているが、生まれ落ちた瞬間に判るほど、造作はオベロニスに似ていた。

「わぁ可愛い!」

 我が子を見て喜んだのは一瞬で、「苦労するんだろうなぁ」としみじみとタイテーニアは呟いた。



 子供が生まれて1週間もしないうちに、王太子、第二王子とその護衛、オベロニスの職場の人間が屋敷を訪れた。


 職場の人達は、タイテーニアが王宮へ行けない間は定期的にシセアス邸を訪れていたので、その流れで来たのもあった。

 それぞれが抱えきれないほどの祝い品を持っていたのは、若干タイテーニアを引かせたが。


 王太子も、職場の人達よりは頻度は低いが、やはり定期的にシセアス邸を訪れていた。

 生まれた男児の可愛さを見て「よし!私も結婚する!」と初めて結婚に前向きになり、王や王妃を喜ばせた。


 第二王子は王太子から聞いて来たようで、「本当に可愛い……持って帰りたい」と言って、護衛である内縁の夫を困惑させていた。

 後日、「子供が欲しいなら女性を娶らなければ」と護衛が言い出して、大喧嘩になった事を王太子に報告されたタイテーニアは、「いや、知らんがな」と呟いた。



「ふおぉぉ!可愛いね!」

 タイテーニアの年の離れた弟であるロビンは、目をキラキラさせて赤ん坊を見つめていた。

 兄弟でもおかしくない年の差だが、実際は叔父と甥である。

 しかし周りが大人だらけで少し引っ込み思案なロビンには、良い遊び相手になるかもしれないとタイテーニアは二人を見守った。


 これから、「金を生む」と言われているシャイクス伯爵家の嫡男のロビンと、シセアス公爵家の嫡男でありオベロニスと瓜二つの赤子は、想像以上の苦労があるだろうな、とタイテーニアはコッソリと溜め息を吐き出した。




 息子であるヘンリーが自分から受け継いだものが、髪色や瞳の色だけではないとタイテーニアが気付いたのは、ヘンリーが3歳になってすぐだった。

 8歳になっていたロビンは学園の初等科に通っており、遊びに来る頻度が減っていた。


 1ヶ月ぶりにシセアス公爵家に遊びに来たロビンは、色とりどりのモヤに包まれていた。

 あぁ、払ってあげないと……タイテーニアがロビンに声を掛けようとした時、ヘンリーがロビンに近付いた。


「ばっちいの、いやいやね~」

 そう言いながらヘンリーが抱きつくと、ロビンの周りのモヤが、ポロポロと落ちたのだ。


「モヤが、触れるだけで落ちた……?」

 タイテーニアは、埃を払うように叩かないとモヤを落とせない。

 しかしヘンリーは、ロビンに触れただけだ。

 触れたというか抱きついたのだが、とにかく叩いてはいない。



 そして夜。

 仕事から帰って来た、いつも通りのモヤまみれのオベロニスだったが、ヘンリーを抱き上げた瞬間にモヤが落ちたのだ。


 オベロニスの幼少期からの苦労を聞いていたタイテーニアは、息子の能力を喜んだ。

「正しい能力ちからを正しく使えるように、しっかりと教えなければね」

 ヘンリーを抱いているオベロニスごと、タイテーニアは抱きしめた。



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