第65話:天国と地獄
「ご懐妊です」
ちょっとした体調不良を心配したオベロニスによって呼ばれた医師が、タイテーニアに満面の笑みを向けた。
まさかの宣告に、タイテーニアは呆然としている。
「凄い!さすがだよティア!」
抱き上げそうな勢いで喜ぶオベロニスを、医師が苦笑まじりで止めた。
「安定するまでは、なるべく静かに過ごしてくださいね」
「ベッドで寝たきり!?」
タイテーニアが絶望的な顔をする。
「いえいえ。普通に生活してください。その辺は、先輩が身近にいらっしゃるでしょう?」
医師の説明に、「あ、そうか」とタイテーニアは笑った。
まずはすぐ近くに居るヒッポリーナに話を聞くことにしたタイテーニアは、広い邸内を探そうとして、オベロニスに止められた。
「庭でお茶をしていれば、あちらから飛んで来ますよ」
言われた通りに庭でお茶をしていると、ヒッポリーナが顔を出した。
「あらぁ良いわねぇ」
現れたヒッポリーナに席を勧めると、にこやかに席に着く。
そして、タイテーニアとオベロニスが違うものを飲んでいる事に目ざとく気付いた。
「あら?体調でも悪いの?」
ヒッポリーナに問われたタイテーニアは、嬉しそうにはにかむ。
「至って健康なのですが、カフェインは……」
それだけで理解したのだろう。
ヒッポリーナが驚いた顔をした後に、タイテーニアを抱きしめた。
ほぼ似たようなやり取りを、実の母であるレアーとも交わし、やはり最高に祝福され、妊婦の心得と禁止事項を語られた。
タイテーニアは、終始笑顔でそれを聞いていた。
「ご懐妊です」
食べた物を殆ど吐いてしまう為に呼ばれた医師に、パティはそう告げられた。
無理矢理純潔を散らされた精神的苦痛が原因かと思われていたが、なんと妊娠していた。
食べ物を吐く原因は、
「何よ、病気じゃ無いんじゃない」
第三夫人が吐き捨てる。
あの王宮でのパーティー後、1ヶ月程泣き暮らして役に立たなかったパティを、他の夫人は
あの場で純潔を散らされたのは、パティだけではない。
それでも皆、翌日からは自分の仕事をしていたのだ。
特に第三・第四夫人は、自分達以外が白い結婚を狙っていたとあの場で知り、他の夫人達との間に溝が出来ていた。
それ故に、他の夫人達より更にパティへの当たりが強かった。
「今までサボった分、ちゃんと働きなさいよ」
第一夫人であるタバッサが命令する。
タバッサはパティより遥かにオベロニスに近い位置に居た人物だ。
未だにオベロニスに未練があるのは、タバッサも同じだった。
病気では無いが妊婦の為、パティが出来る仕事は限られている。
重い物は持てず、高い所にも上がれない為、掃除は出来ない。
食事の準備も、気持ちが悪くなると、本人が拒否した。
自給自足の為の庭の畑作業も、体力が落ちていたからか1時間もせずに倒れてしまった。
ちゃんと休憩しながらの作業だったのにも拘わらずだ。
「こんなんじゃ何も出来ないじゃない」
第二夫人がパティに雑巾をぶつける。
邸内の掃除が終わって休憩しに来たら、椅子に座って休んでいるパティが居た。
どうしたのか問うと、ニーズの仕事を手伝っていたが、悲しくなって泣いてしまい、執務室を追い出されたそうだ。
それを聞いて、思わず持っていた雑巾を投げつけたのだ。
それ以来、パティは他の夫人と食事が別にされた。
パティが居ると雰囲気が悪くなるからだ。
ニーズとその両親は、元々一緒に食べていない。
ニーズ達と一緒に食べる気にもなれず、パティは一人で食事をするようになった。
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