第64話:元から断つ ※センシティブな内容が含まれます




吃驚ビックリした」

 王宮のパーティーホールの壁際で、胸を抑えながら深呼吸しているのは、公爵夫人らしく上品に着飾ったタイテーニアだ。

 かつての婚約者であるニーズ・ボトンとその妻六人と鉢合わせをした。

 そして第六夫人であるパティの常軌じょうきいっした様子に、壁際へと避難して来たのだ。


 タイテーニアは、まだ震えている自分の両手を見つめる。

 パティから出されたのは、赤黒いモヤでは無く、赤黒いであった。

 それがジャラジャラとオベロニスへと巻き付いたのだ。


「私の力で引き千切れる鎖で良かった」

 震える指を握り込んで、タイテーニアが呟く。

 その体を、オベロニスはそっと抱きしめた。

「ありがとう」

 何が起こったのかはまだよく解っていないが、自分がタイテーニアに助けられた事だけはオベロニスも理解していた。


「何だろう。執着って言うか、妄執?」

 タイテーニアはオベロニスの胸に顔を埋めた。

 そっと背中に手を回し、……バシンと叩く。

「こんな時にまで、もう!」

 どうやら甘えようとしたのに、オベロニスがモヤに纏わりつかれたので拗ねたようだ。

 可愛く怒っている腕の中のタイテーニアを見て、オベロニスはクスリと笑った。




「王命での婚姻なのに、白い結婚とか言ってる女が居ましたよ。最低一人は子を産む条件でしたよね?」

 タイテーニアが花摘みに行っている間に、オベロニスはレイトス大公へと耳打ちした。

 先程の騒ぎを報告した者がいたらしく、タイテーニアが離れると、レイトス大公が側へと寄って来たのだ。


「おやおや、それは困りましたね」

 本当にそう思っているのか?と疑いたくなる軽い口調で言ったレイトス大公は、誰にともなく頷いて見せた。


「媚薬を使うのも面倒なので、股を開かせて挿れさせますかねぇ」

 物騒な呟きに、オベロニスは思わず従叔父を見る。

「それとも夫をベッドに横たえて、その上に座らせますかねぇ」

 レイトス大公の呟きは続く。

「どっちが良いと思います?」

 急に問われて、オベロニスは「どちらでも」と答えるのが精一杯だった。



「まぁ!フィロスティー・レイトス大公。お久しぶりでございます」

 侍女に付き添われ、戻って来たタイテーニアが挨拶をする。

「おやおや、私があと20歳若かったら、オベロニスの前でも求婚してましたよ。花の妖精か水の精霊かと思いました」

 レイトス大公の言葉に、タイテーニアは「ありがとうございます」と笑顔で返す。

 口の端が引きつっているのは、ご愛嬌だ。


 花の妖精も水の精霊も、女性を褒める時の最上級の言葉だ。




 慣れない褒め言葉にタイテーニアが戸惑っている頃、馬車停めで賃貸馬車に乗り込もうとしていたボトン家の若夫婦達が、王宮の奥へと案内されていた。


 一人別室に案内されたニーズは、尋問のように夫婦間の閨の話をさせられた。

 驚くことに、まだ第三、第四夫人としか夜を共にしていなかった。

 すぐさまそれ用の寝室が用意され、何人もの人間が見守る中で、その他の四人は純潔を散らすことになった。


 パティは最後まで暴れて抵抗し、最終的にはレイトス大公の言った通りに、両手足を拘束され持ち上げられた排泄する子供のような体勢で、薬により怒張したニーズのモノの上に落とされるように座らされた。



 托卵などを防ぐ為に王家では当たり前の、初夜の見守りではあるが、それも貴族家ではほぼ無い行為である。しかもなど通常、王家でも有り得ない。

 どれだけレイトス大公の怒りが激しいのかがうかがえた。



 白い結婚を理由にした離縁は、これで確実に出来なくなった。



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