第63話:予想外な再会




 本日は、王家主催の春の園遊会である。

 貴族と名の付くものは、例え末端であろうと参加しなければいけないパーティーである。

 朝から晩まで開催され、王家に挨拶すれば帰宅も許される。

 暗黙のルールで、爵位が低いものほど早い時間に来場する。


 王太子に泣き落とされ、昼前から来場していたシセアス公爵夫妻は、時代遅れの正装で来場したボトン伯爵家の面々と鉢合わせをした。

 本来なら会わなかっただろう。

 今、会場に居るのは主に騎士爵か准男爵などの一代貴族だ。

 ボトン家は、他の貴族に馬鹿にされるのが嫌で、態と早い時間に来ていたのだ。



「お前!なぜここに」

 ニーズがタイテーニアを睨みつける。

 ニーズとその妻達は、タイテーニアに真っ黒いモヤを

 竜巻の如く、タイテーニアの周りを黒いモヤが渦巻く。

 初めての出来事に、タイテーニアは横のオベロニスへと縋り付いた。


「お前?お前とは、まさか、私の、シセアス公爵の妻へ向かって言ったのか?」

 オベロニスはタイテーニアの腰へと腕を回し、その体を支えながらニーズへと問い掛ける。

 周りから注目を浴び、六人の妻達は周りをキョロキョロと見回す。


「ねぇ、早く謝りなさいよ」

 パティがニーズの後ろから声を掛ける。

 第六夫人のパティは、1番ニーズから遠くに居たので、「お前」が誰を指しているか気付いていない。

 そもそも目の前に誰が居るかも解っていない。

 他の夫人の間から、パティは前を覗き込んだ。



「私の……王子様」


 パティはオベロニスを見て呟いた。

 あの日、ニーズに店で、パティは運命の相手に出会った。

 パティの中では、そうなっていた。


「やっと私を迎えに来たのね?」

 他の夫人を押し退けて、パティはオベロニスの前に出た。

「私!まだニーズとは寝てないの!白い結婚だから貴方の妻になれるわ!」

 パティの視線がオベロニスの顔から下へ、タイテーニアの腰を抱く手に移る。

 そしてタイテーニアの顔を見た。


「まさか、そんな地味な女が公爵夫人?嘘でしょう?」

 パティは、タイテーニアを覚えていなかった。


「政略結婚って残酷よね。どんな女でも娶らなきゃいけないんだもの。でももう大丈夫よ、私が貴方を支えてあげる。どうしても離婚できないなら、その女が第二夫人でも良いわよ」

 パティがオベロニスへと微笑む。

 断られるなど、微塵も思っていない。

 なぜなら、自分達は運命で結ばれているから。



「オーベン、離れましょう?おかしいわ、この人」

 タイテーニアはオベロニスの耳元で囁く。

 何の脈絡も無く話し始めた内容も、視線も、赤黒い執着も、何もかもがタイテーニアには怖かった。



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