第62話:両片想いは、正直鬱陶しい




「なんてこったい」

 晩餐会後、王太子に時間を貰って、王太子の私室でお茶をしていた。

 サロンなど、他の人の目や耳がある所での会話は避けたかったからだ。

 そして食堂で見たままを、タイテーニアは王太子に報告した。


 モヤの事は言わず、「そんな気がします」と言葉を濁してはいた。

 そして王太子の口から出たのが、冒頭の「なんてこったい」である。

 王太子は、言葉と共に頭を抱えていた。



「王子は三人もいるし、別に結婚を強要されたりもしていない。現に王太子である私も、まだ婚約者すら居ない」

 王太子は溜め息を吐き出す。

「別に臣籍降下の時に護衛として連れて行って、愛を育めば良いじゃないか。公表は出来なくても、うちの家族なら反対はしないぞ!?」


 タイテーニアは苦笑いするしかない。

 まだその前段階なのである。

 何せ両片想いなのだ。

「多分ですけど」

 前置きをして、タイテーニアは話し出す。

 ここからは本当に、ただ単なる予想というか、妄想だ。


「第二王子殿下は、愛する人の出世を後押ししたかったのかと」

 オベロニスが同意するように、無言で頷く。

 対して王太子は、意味が解らないという表情で顔をあげた。



「偶然空いた王太子の護衛の座に、第二王子という立場を利用して例の騎士をじ込んで、陰ながら愛する人の役に立とうとしたのかと。近衛騎士の中でも、王太子の護衛は花形ですよね。おそらく、そのまま王の護衛に持ち上がりでしょうし」

 タイテーニアはもう一度、噛み砕いて同じ内容を説明した。


「例の護衛としては、愛する人と離されただけで喜んではいないのでは?第二王子が推薦したとは知らないのでしょう?」

「あぁ。弟には口止めされたので、推薦された事は告げていない」

「王太子に引き抜かれたと思ってるのなら、頭では解っていても、感情がついていかないのかも。恋愛って、そういう物らしいですし」

「私は逆恨みされてるだけって事か!?」

「はい」

 王太子が再び頭を抱えた。



「第二王子大好きな護衛が、王太子の座を奪う為にーとか、そういう陰謀かと思ったんですけどねぇ」

 タイテーニアが、頭を抱えている王太子に、更なる追い撃ちをかける。

「まさか大好きの意味が恋愛感情とは、私も思いませんでしたよ~」

 タイテーニアがアハハ~と声に出して笑う。


「命を狙われるとか、物騒な事にはならないでしょうけど、お二人をなんとかしてあげてくださいね」

 ノロノロと顔をあげた王太子に、タイテーニアは満面の笑みを向ける。


「何せ、二人して自分の片想いだと思ってますから!可哀想です!」




 後日、王太子の護衛から、例の騎士が外れていた。

 王太子の捨て身の「結婚に興味を持てず、後継を作れるか不安なので、第二王子に王太子の座を譲ろうかと迷っている」と、第二王子に告げる作戦が成功したらしい。

 勿論、その場には例の護衛が居たそうだ。


「僕には好きな人が居るので無理です!」

「おぉ!丁度良いではないか!その人と結婚すれば良い!」

「無理です!だって……」

「だって?」

 と、第二王子を追い詰め、ほぼ無理矢理告白させた王太子を、タイテーニアが「やはり腹黒」と呼んでいた。



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