第61話:王族との晩餐会
「大丈夫、大丈夫。王太子も居るし、レイトス大公も居る。顔見知りが居るだけで、少し気が楽にならないかい?」
馬車の中で、オベロニスはタイテーニアの手を握って
「そうだぞ。もし国王が何か言ってきたら、すぐに帰れば良いだけだ」
テーゼウス前公爵が明るく笑う。
「それに王族なんて馬鹿みたいに多いのよ?私達なんて目立たないわよ」
ヒッポリーナ前公爵夫人がコロコロと笑う。
そんな夫と義両親の様子を見て、全然大丈夫じゃない!と余計に不安になったタイテーニアだった。
王宮に着いたタイテーニアは、オベロニスにエスコートされて歩いていた。
職場のある方とは入口自体が違う、王族の居住地区である。
すれ違う人は上級使用人の中でも偉い人なのだろう。
女性陣の殆どは、タイテーニアをチラリと見て、馬鹿にしたように鼻で笑ったり、口元を歪めた後で会釈をしてくる。
働く事は素晴らしい事だが、家を守っている女主人を見下すのはいただけない。
しかもタイテーニアは、王宮で働いているのだ。
傍から見たら、お茶しかしてないように見えるかもしれないが。
タイテーニアがコッソリ溜め息を吐き出すのを、後ろを歩いていたシセアス前公爵夫妻は見ていた。
後日、王妃主催のお茶会で女性使用人を全員並べ、失礼な態度を取った人を一人残らず指差し「この人達が表に居るなら、私と嫁は二度と王宮に来ないからね」とヒッポリーナが宣言をするのだが、それはタイテーニアの耳には入らない。
案内された食堂は公爵家よりも広く、タイテーニアを萎縮させた。
臣籍降嫁した元王女や、その子供まで招待されており、「王族の血に囲まれている!」とタイテーニアは軽くパニックになっていた。
いつも顔を合わせている王太子が、1番の直系だけどね、とは言わないでおいたのは、オベロニスの優しさだ。
その王太子を含む、王家が食堂へと入って来た。
国王陛下、王妃陛下、王太子殿下、第二側妃、第三側妃。
第二王子と第三王子は、二人で仲良くコソコソ話しながら歩いていた。
その後を護衛が歩いて来て、食堂の壁際に並ぶ。
食堂が広いので、特に圧迫感を感じる事は無かった。
いつも王太子に付いている二人の護衛も、勿論壁際に並んでいる。
席に着いた王家の面々を、タイテーニアは失礼にならない程度に観察した。
すると、第二王子が周りをキョロキョロと見回す。
そして王太子の護衛を見つけると、安心したように前に向き直った。
「嘘、でしょ……?」
タイテーニアは、自分の目を疑った。
なぜなら、第二王子から護衛へ向かって、赤いモヤが伸びたからだ。
そして第二王子へと向かって、護衛からも赤いモヤが伸びている。
「単なる痴情のもつれかよ!」
タイテーニアは心の中で叫んだ。
実際に、隣りに座るオベロニスとテーゼウスにも聞こえる程度には、口にも出ていた。
両想いなら、赤いモヤは出ない。
ようは第二王子と護衛は、両片想いなのだった。
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