第55話:犯人は王太子(多分)




 事件当日、タイテーニアは「解決!犯人確保」を確認して、オベロニスより一足先にシセアス邸へと帰った。

 翌日、詳しい説明をと王太子に呼び出され、なぜか好きなお菓子や茶葉の種類、好きな色等を質問されていた。


 確かに説明もあった。

 茶器の毒の方は、メイドが「オベロニス様に捨てられた」と言った嘘を父親が真に受けての犯行だった事。

 発端は、オベロニスの居る部所のお茶担当になれたのは、オベロニスが自分を好いているからだとのメイドの思い込みだった。

 それなのに、オベロニスが電撃結婚したので「騙された!」となったそうだ。


「そもそもうちは、他みたいにお茶休憩が無いからな。それぞれ持参の飲み物を適当に飲んでいる」

 オベロニスの言葉に、部下の三人も頷いていた。

 使う予定が無いお茶などどうでもよく、余ったメイドが担当になっただけだった。


 他の部所は「お茶を淹れるのが上手いメイド」とか「見目麗しい」「癒やし系」等々、色々と条件をつけていたそうだ。

「男の欲望丸出しだわ」

 呆れたタイテーニアの声に、「だからうちは違うからな!」とオベロニスが力強く言い、部下三人もうんうんと頷いていた。




 そんな話をした数日後。

 また王宮へ呼び出されたタイテーニア。

 今回は王太子の応接室ではなく、オベロニスの部所に直接呼ばれていた。


「何ですか、これ」

 タイテーニアが戸惑ったのも当然だろう。

 部屋の広さが倍になり、ソファにテーブルに、簡易キッチンまである。

 新しく増えた部屋は、何ともタイテーニア好みの部屋だった。

 落ち着く色合いに、高価ではないが質の良い家具類。

 余計な調度品は無いが、花などは置いてあった。



「隣の資料室を地下に移動して、休憩室にしてみました!」

 王太子が自慢気に宣言する。

「来客がある時は、これを引くと壁になるんですよ」

 部下1が蛇腹に折り畳まれていたパネルドアを引くと、そこは壁にしか見えなくなっていた。


「登録した人にしか動かせないすぐれものですよ!奥様も後で登録してくださいね」

「は?」

 ニコニコと話す部下2を、タイテーニアは呆けた顔で見つめていた。




 そして揮発性の毒物の犯人が判明した頃には、タイテーニアは休憩室の管理職員になっていた。

 外部の人間と接触したら、タイテーニアとお茶をする。

 オベロニスの部所では、そんなルールが出来ていた。


 偶に王太子が廊下へ通じる扉から休憩室へと来ており、部下を驚かせたが、そこはオベロニスの部下達である。

 すぐに現状を受け入れ、馴れた。



「うちの料理人のお菓子の方が美味しい」

 ポツリと呟いたタイテーニアの言葉がなぜか王宮に広がり、王宮のパティシエが奮起し、お菓子が格段に美味しくなったと密かに職員達に感謝された。

 1番喜んだのは、王家だったそうだ。


 実家のシャイクス家を突然王宮パティシエが訪ね、父であるタイターニの顔面を蒼白にした事など、タイテーニアは知らない。

 そこにシセアス家のパティシエも混じっていた事など、勿論知るよしもない。




―――――――――――――――

茶器を用意したり、洗ったりするのは王宮メイドです。

タイテーニアは、あくまでも淹れるだけ。

お湯を沸かしたりする為の簡易キッチンです。

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