第53話:本当の伏魔殿はここ?




「定期的に面会に来てくれるかい?」

 王太子にそう言われ、タイテーニアは引き攣った笑いを浮かべる。

 断っても良いものなのだろうか?と心の中では思っていた。


「タイテーニアが私の職場にいつでも居られるようにする為に面会をしたのであって、王太子との面会はもう必要ないです」

 不敬とも取れるオベロニスの発言。

 そしてその聞き捨てならない内容に、タイテーニアはオベロニスを見る。


 あの侍従は部屋を出て、本来の仕事に戻っていた。

 その代わりに、何もなかった方の護衛が室内側の扉の前で警護中だ。

 侍従がまだ居たら、また青黒モヤ攻撃だった事だろう。



「いつでも居られる?」

 それは、『旦那様の職場見学~』や、『差し入れを持ってご挨拶~』とは違うニュアンスに聞こえる。


 タイテーニアはドレスを作って貰った時の、バンドゥとの会話を思い出していた。

 確かバンドゥは「私の職場では、王宮を職場とする人間が王妃陛下と面会をしたのですが、さすがに国の中枢になると、旦那様に会いに行く許可を得る為だけに面会するんですねぇ」と言っていた。


「私、旦那様の職場で働く事は出来ませんよ?」

 詳しくは聞いていないが、かなり優秀でなければ働けないはずだ。

「働かなくても良いんだ。ただ、くれれば」

 オベロニスの切羽詰まった様子に、何か有るのかと話を聞く態勢になった。



 オベロニスは、膝の上のタイテーニアをソファに移動させた。

 小さく溜め息を吐き出してから、タイテーニアの顔を真正面から視線を合わせるように見つめる。

「実は、最近体調を崩す部下が増えた」

 タイテーニアは無言で頷く。

 ちゃんと聞いてます、の意思表示だ。


「仕事柄、皆、毒に対する警戒心が強い。それなのに、だ。だから他に原因が有るのかと思ってな」

 オベロニスはチラリと王太子を見た後、話を続ける。

「君の悪意に対する勘が鋭い事を王太子に認めてもらって、部下達との面会の許可を貰う手筈だったんだ」


「勘が鋭い……ねぇ」

 茶々を入れてくる王太子を、オベロニスは今度はハッキリと睨みつけた。

 そんなオベロニスを見て、これは侍従が嫉妬するのも当然かな、とタイテーニアは的外れな事を考えていた。




 とにかく会ってみよう。

 なぜか王太子がノリノリで提案してきた。

 しかも一緒に行くと言う。

「自分の仕事に戻ってください」

 オベロニスが冷たく言うが、王太子はニヤリと笑う。

「私が居た方が皆が素直になるよ?」

 王太子のしたり顔を見て、オベロニスは苦虫を噛み潰したような顔になった。


 オベロニス、タイテーニア、王太子、護衛二人の計五人で、ゾロゾロと王宮内を歩いていた。

 すれ違うメイドや侍女、どこかの職員らしき女性からの青黒いモヤを、タイテーニアは払い落とす。

 そしてチラリと確認しては、オベロニスの背中を定期的に叩いていた。


「ねぇ。それ、私にもやってもらえないかな?」

 王太子がニコリと笑う。

 オベロニスよりは少ないが、またモヤが纏わり付き始めていた。

 だからといって「はい!喜んで!」とはならない。

 相手は触れる事も恐れ多い王太子なのだ。


 困ったタイテーニアがオベロニスを見上げると、苦笑しながら頷かれた。

 モヤによる体調不良を誰よりも知っているオベロニスには、やるなとは言えなかった。

「後ほど、他に人が居ない所でなら」

 半ば諦めて、タイテーニアは了承した。



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