第48話:リアス伯爵家のその後




 数日後、リアス伯爵家からお礼状が届いた。

 正確には、オベロニスにデイミーからお礼状が、タイテーニアにはヘレンからお礼状が届いていた。


「えぇ~と、デイミーの体調不良が治った?犯人は料理人で実家から連れて来た1番の古株ぅ!?」

 タイテーニアは手紙を読み、驚きの声をあげた。

 それを見て、オベロニスは頬を緩める。


「こちらもある意味、良い知らせだよ。例の侯爵家が無くなるそうだ」

 オベロニスの台詞に、タイテーニアは眉間に皺を寄せる。

 良い知らせか?と表情が言っている。

 例の侯爵家とは、デイミーの実家で兄が継いだ家の事だろう。


「もし存続してたら、リアス伯爵が戻って侯爵と伯爵両方持つか、侯爵家を継いで伯爵家は他の遠縁とかに任せるかだよ?」

「それは困るわ!」

 タイテーニアが叫ぶ。

 元は武官なデイミーは領地経営が不得手らしく、「何も無い伯爵領でも大変そうなの」と妻であるヘレンに心配されていたのだ。



 ギリギリの黒字がシャイクス家との取引で確実な黒字になり、あれだけねたまれたのだ。

 これで更に侯爵の地位までとなれば、デイミーの心労は計り知れない。


「リアス伯爵家には影響無いのね?」

 タイテーニアの質問に、オベロニスが黒い笑顔を浮かべる。

「私がそんな、下手を打つと?」

 タイテーニアが首を傾げる。

「狩猟ですか?」

「いや、そうじゃなくて……」

 んんっとオベロニスは咳払いをする。


「私がそんな失敗をするわけが無いでしょう?リアス伯爵は完全な被害者です」

 言い直したオベロニスの言葉に、タイテーニアはやっと笑顔になった。

「さすがオーベン!私の愛する旦那様だわ」

 素直に喜ぶ妻を見て、詳しい事は絶対に話さないようにしようと心に誓うオベロニスだった。




 あの日。リアス伯爵邸から戻ったオベロニスは、すぐに王宮へと連絡を入れ、デイミーの実家である侯爵家を調べさせた。

 侯爵家は代替わりしてから、低迷の一途を辿っていた。

 おそらくデイミーの兄には、領地経営の才能が無かったのだろう。

 先代から仕えている者も居たはずなのに、新領主を支えるには力不足だったようだ。


 それでも何とか耐えていたのに、2年前に先代侯爵が亡くなってからはどうしようも無くなっていた。

 領地収入が減っているのに、枷の無くなった領主とその妻は散財を繰り返した。


 見た目は派手な、羽振りが良い生活をしていたが、実情は、堅実な弟のリアス伯爵家より困窮していた。

 侯爵の喪が明けて、ヘレンとデイミーが結婚し、更にその差が開いた。

 ヘレンの実家は大きな商会を持つ子爵で、領地経営が不得手なデイミーに、優秀なを惜しみなく提供したのだ。



 件の侯爵は、弟デイミーを亡き者にし、その伯爵領を手に入れるだけではなく、ヘレンも第二夫人とするつもりだった。


 大きな収入源のあるリアス伯爵領と、ヘレンの実家の子爵家からの援助。それらを手に入れ、自分は生涯働かずに豪遊する気だったのだ。


 そして選んだのが、弟であるデイミー・リアス伯爵の毒殺である。

 少量の毒を摂取させ続け、原因不明の衰弱死にするつもりだったようだ。


「バレないとでも思っていたのですかね?浅はかな」


 それでも、ヘレンがタイテーニアの友人でなければ、事が終わった後にしか気付けなかっただろう。

 目の前で美味しそうにお菓子を頬張る妻を見て、事前に気付けて良かったと、タイテーニアの笑顔を守れて良かったと、オベロニスは微笑んだ。



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