第47話:伯爵夫妻と悪意




「本日はお越し頂きありがとうございます」

 伯爵が妻のヘレンを伴って、シセアス公爵夫妻のいる席へとやって来た。

「え?伯爵……?ですよね」

 タイテーニアが驚いたのも無理はない。

 熊のようだったはずの伯爵が、一回り小さくなっていた。

 健康的に痩せたのでは無いのは、顔色の悪さで判る。


「タイニー、どうかしら?」

 ヘレンがタイテーニアに聞く。

 ヘレンは数少ないタイテーニアの力を知っている友人だった。

「お召し物にが……」

 それを聞いて、ヘレンは「あぁ」と表情を曇らせた。



 ヘレンが嫁いだリアス伯爵家は、1年前に領地に鉱山が見つかった。

 何も使い道の無い鉱石だと馬鹿にされていたのだが、最近、磁器の釉薬ゆうやくに最適だと判明し、シャイクス家との取引が始まったのだ。


 今、シャイクスブランドの食器は、作れば作っただけ売れると言われている。

 それの釉薬である。

 クズ鉱山が宝の山に変わったようなものだろう。


「ボトン家に真似されないように、お母様と職人が色々試した結果の賜物たまものなのよね。でも、これから売りに出されるから、まだ世間では釉薬の事も鉱石の事も知らないはずよね?」

 恨まれる理由が解らず、タイテーニアがリアス伯爵へと質問する。


「お恥ずかしい話ですが、私には兄がおりまして」



 ヘレンの旦那様であるデイミーは、元は侯爵家の次男である。

 結婚を機に、母方のリアス伯爵家を継いだのだ。

 それは幼い頃から決まっており、ちゃんとした教育も受け、正当な方法で継いでいた。


 それなのに最近、侯爵家を継いだ長兄がリアス伯爵家の領地も自分が継ぐのが正当だと言い出した。

 今までは何もない発展途上地だと馬鹿にしていたのに、である。



「詳しい話は後日聞きましょう」

 オベロニスがデイミーに笑いかける。

「え?」

 リアス伯爵夫妻がキョトンとする。

「実際に乗っ取ろうとする動きがあるのでしょう?それと、カトラリーは必ず銀製品を使うようにしてくださいね」

 毒に注意しろ、と言う警告だった。


「私もその方が良いと思う。ちょっと一気に痩せ過ぎよ」

 タイテーニアが同意すると、ヘレンが驚いた顔をする。

「え?モヤのせいじゃないの?」

「多少体調不良になっても、そこまで痩せる事は無いと思う」

 ヘレンの顔色が悪くなる。


 夫が痩せたのはモヤのせいだと思っていたのに、物理的な理由があったのだ。

 その方がショックだろう。


「大丈夫です。愛する妻の実家の取引先です。これからは我が公爵家とも関係がありますからね」

 全然会話の意味が理解出来ていないデイミーが、三人の顔を見回す。

「シャイクス家とシセアス公爵家で、共同事業を始めたので」

 タイテーニアがデイミーに、事業の件を説明をする。


「あぁ、あのクズの家が没落したからね!」

 言った後に口元を慌てて塞いだヘレンを見て、オベロニスは今日1番良い笑顔を向けた。



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