第28話:母は強し?




「まぁ、ではお母様は気付いてましたの?」

 実家に帰る前、母親がボトン家との共同事業の事を調べていた事が明かされ、タイテーニアだけでなく、タイターニも驚かされた。

「当たり前よ!あんな何の努力もしない奴が治めている領が、うちより優秀なわけ無いじゃない!」

 しかし調べ始めて、これから本格的に動こうという時に妊娠が発覚したらしい。


「あのクズども、私が出産で実家に帰ったもんだから、更にいい気になりやがって」

 お母様?一応伯爵夫人ですよね?

 タイテーニアの表情がとがめるようにゆがんだが、口にする事は無かった。


「お父様は知らなかったのですか?」

「うん。全然」

「しょうがないじゃない。腹芸とか全然出来ないんだもの、この人」

 そこに惚れたんだけどね、と言う母親の言葉は、聞こえないフリをしたタイテーニアだった。



「シセアス公爵も色々調べてくださってるのよね?」

 レアーの問いに、タイターニは曖昧に項く。

「シセアス公爵よりは、レイトス大公?」

「もうどっちでも良いわ。凄過ぎてどっちもどっちよ」

 とにかく、と実家から連れて来た従者から箱を受け取る。

 中身はボトンブランドのティーカップだった。


 カップとソーサーの縁から1センチ程の所に、黒い線が入っている。

 この線が無い方が良いのに、趣味が悪いとタイテーニアは常に思っていた。



「これ、うちの商品に線を入れただけよ」

 レアーの言葉に、タイターニは首を横に振る。

「それは僕も言ったよ。うちの商品だろうって。でももう少し厚みのあるカップを出されて、それがうちのだって言われた」

「何でそれを信じるのかしら」

 レアーが溜め息をく。


「だって、うちの工房から直接持って来たのと、その場で比べたんだよ?」

「誰がそのカップを持って来たの?」

「え?ボトン家と取引のある商会の人が……あっ!」

「そうね。工房から持って来る間にすり替えたのでしょうね」

 タイターニは涙目である。


「そこで、私は考えました!花と矢です」

 レアーはカップとソーサーをひっくり返す。

 カップは高台の内側に、ソーサーは真ん中に、小さな花と矢が彫られてた。

 釉薬ゆうやくで目立たないが、確かにそこにある。

「でも、それもボトン家が付けたって言われたら?」

 タイテーニアが聞くと、レアーはニヤリと笑う。


「大丈夫よ。釉薬を落とすと、花の真ん中にシャイクス家のSが彫ってあるのよ。他より浅いから釉薬で判らなくなるの。アイツ等は絶対に知らないわ」

 おぉ!とタイターニとタイテーニアは、二人で拍手をした。


「ここ3年の商品には、全部この細工がしてあるわ。これでたまたま混じったなんて言い訳も出来ないわよ!」

 ほ~っほっほと高笑いするレアーを見て、やはりシャイクス家にはレアーが居ないと駄目だと、使用人達も温かく見守っていた。



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