第27話:楽しいシャイクス家




「お帰りなさい!お母様!」

 シャイクス家のエントランスで、久しぶりに会った母子は抱き合った。

「ロビンも久しぶりね。お姉様の事を覚えているかしら?」

 タイテーニアが乳母に抱かれている弟のロビンに声を掛ける。

 まだ3歳の幼子が、何ヶ月も前に会った姉を覚えているわけもなく、キョトンとしている。


「ねぇ、タイニー。なぜ急に呼び戻したのかしら?」

 レアーが夫であるタイターニに当然の質問をする。

 今まで不振であり、借金を増やすだけだった共同事業が、突然不振じゃ無かったと手紙が来たのだ。


「なんかね、うちの借金は本当は借金じゃ無かったらしいんだよ」

 タイターニが妻のレアーに説明をするが、説明する本人が意味を解っていないので、聞いた方も理解出来ない。

「これからは、共同事業はシセアス公爵家と行う事になったんだ」


「シセアス……公爵家?なぜいきなり公爵家!?」

 初耳だと詰め寄るレアーに、タイターニはあれ?と首を傾げる。

「タイテーニアの旦那さんだからだよ。手紙に書かなかったっけ?」

「はぁ!?」

 レアーの両手がタイターニの胸元の服を掴み、締め上げる。


あの馬鹿ニーズとの婚約が破棄になった事しか書いてなかったわよ!共同事業の事より、娘の結婚の事を書きなさいよ!え?ちょっと待って。婚約じゃなくて婚姻って事!?」

 グイグイと締め上げてくる妻へ、タイターニが焦りながらも説明を始めた。

「えぇと、レイトス大公がシセアス公爵と一緒にうちに来て、陛下の許可済の婚姻届を持ってたから、その日のうちに結婚成立してた」


 予想以上に大物の名前がボンボン出てきて、理解の範疇を超えたレアーは意識を手放した。



「パパとママは仲良しね」

 気絶して寄り掛かるレアーを抱きとめるタイターニは、はたから見たら仲良し夫婦に見えるのかもしれない。

 仲睦まじい両親と、腕の中にいる可愛い弟。

 記憶の中より大きくなった弟を抱きかかえたタイテーニアは、その重さに月日の流れを感じていた。

 そして、オベロニスによってもたらされた幸せを、タイテーニアは噛みしめた。




 リビングへと移動した四人。

 レアーとロビンは抱えられての移動だが、今はそれすらも幸せに感じている。

 美味しい紅茶と、ロビン用にはホットミルク。

 もうすぐ昼食だからと、少量のクッキーが出された。


「3時のオヤツはケーキを焼きますよ。生クリームとフルーツたっぷりの」

 クッキーを持って来た料理人の言葉に、ロビンの目が輝く。

「私、久しぶりに紅茶のシフォンケーキが食べたいわ」

 良い香りに意識を取り戻したレアーが言う。

「それでは、そちらも焼きましょう」

 笑顔で了承した料理人に、レアーも笑顔を返した。


 一口紅茶を飲んだレアーは、ほぅと息を吐き出す。

「移動するのの何が辛いって、うちの紅茶が飲めない事ね」

 レアーの言葉に、タイテーニアが「え?」と驚く。

 それに気付かずに、レアーは続ける。

「あのボトンの野郎、絶対にうちの商品を真面目に売らず、悪用してたはずだわ」


 ちょっと過激な母親を、そういえばこういう人だったとタイテーニアは見つめた。



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