第24話:公爵家は伏魔殿?




 公爵家のエントランスで、タイテーニアは三人の男性に迎えられた。

「紹介しよう。ハウス・スチュワードのスチュアート、スチュワードのトーマス、バトラーのセバスチャンだ」

 出迎えた男性を、オベロニスは順に紹介する。

 タイテーニアは笑顔で挨拶したつもりだが、その表情は明らかに引き攣っていた。


「もう一人ランド・スチュワードのランドールという者がいるのだが、仕事で居なくてね。次回紹介するよ」

 笑顔のオベロニスに、この家に嫁ぐ自信が無くなったタイテーニアだった。



 公爵家では、臨時雇用を含めると三百人近い使用人がいた。

 その為に、使用人を管理する使用人が必要なのだった。

家令スチュワード執事バトラーの名前は襲名制でね。四人共、本名は違うんだ」

「スチュワードのスチュアートなんて、出来過ぎだと思いました!」

 タイテーニアが驚きながらも笑う。


「やっと笑った」

 オベロニスの手が、タイテーニアの頬に触れた。

 気遣うように頬を撫でる指。

 二人の距離が縮まり…………無粋なノックの音にさえぎられた。



「失礼します」

 主人の返事も待たず扉が開かれ、一人の女性がワゴンと共に入室した。


「ヒッ!」

 入室して来た女性を見た途端、タイテーニアは小さな悲鳴をあげた。

「ティア?」

 埃を払うように自分の体をパタパタと叩くタイテーニアを見て、オベロニスは状況を理解した。


 オベロニスは、お茶の準備をしているメイドを観察する。

 期間限定メイドで、伯爵家の令嬢だった筈だと、その顔に視線を移す。

 途端に目が合い、微笑まれた。

 普通のメイドなら、このタイミングで視線が合う事はあり得ない。


 何を狙っているのか丸分かりな伯爵令嬢を、オベロニスは常に警戒していた。

 その為、期間限定メイドなのにもかかわらず、顔を覚えていたのだ。

 目が合うと照れながらも微笑む顔は、美しいのだろう。

 他の貴族男性なら虜になったかもしれない。



 メイドがお茶を淹れている間、タイテーニアは無言で自身をパタパタしていた。

 オベロニスとメイドの目が合うと、今度はオベロニスの体をパタパタと叩き始める。

「まぁ、はしたない」

 メイドが聞こえよがしに呟いた。


「はしたないだと?」

 オベロニスが低い声でメイドをとがめる。

「あ、申し訳ございません。私は伯爵家の者ですのでつい……。男性の体に断りなく触れるなど、貴族の令嬢のする事では無いですわ」

 明らかにタイテーニアを見下しているメイドの態度に、オベロニスの顔から表情が消えた。


 無言で席を立ったオベロニスを見て、メイド……タバッサは自分の主張が認められたのだとほくそ笑んだ。

 青白い顔でソファに座るタイテーニアにさげすむ視線を向けてから、自分へ向かって歩いて来たオベロニスへ微笑む。


 やはり接する機会が無いから私の魅力に気付かなかったのね!

 こんな女より、私の方が良いに決まってる。


 しかし、勝者の笑みを浮かべていたタバッサの横を、オベロニスは無言のまま通り過ぎた。

 扉を開き、廊下へ向けて声を張る。

「スチュアート!トーマス!セバスチャン!」

 呼ばれた三人は、すぐに部屋へと入って来た。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る