第23話:伯爵家から公爵家へ




 タイテーニアは緊張した面持ちでエントランスに立っていた。

 時間は午前中。

 いつもなら昼食には早いし、何をしようかしら?と部屋でまったりしている時間である。

 持っている訪問ドレスの中で1番上等な物を着た。

 それに見劣りしない宝飾品も身に着けた。

 髪もいつもより凝った編み込みをしてもらっていた。


 今日は、初めてシセアス公爵家を訪問するのである。


「お嬢様、まだ時間には早いですし、せめてどこかに座って待たれていてはいかがでしょう」

 執事がタイテーニアに声を掛けるが、これも既に3回目だ。

「座ったらドレスに皺が付くわ。初めてのお呼ばれよ?使用人達に馬鹿にされないようにしなきゃ」

 ウロウロするタイテーニアを見て、気持ちが解るだけに執事もそれ以上強くは言えなかった。



 予定通りの時間に、公爵家の馬車が伯爵家へ到着した。

 侍従に呼ばれたタイターニもエントランスへ顔を出す。

「え?まさかずっとここで待ってたの?」

 既に完璧な装いでエントランスに居る娘を見て、タイターニは驚きの声をあげる。


「だってお待たせするわけにはいきませんし」

「いやいや、門番からの連絡が来てから降りて来ても充分間に合うからね?その為に今日は門番を二人にしたんだから」

 公爵の来所がすぐにわかるように、いつもは一人の門の警備を、今日は二人に増やしていた。


 親子の間でそんなやりとりがされている間に、公爵家の馬車が到着した。

 軽く挨拶を済ませ、タイテーニアは公爵家の馬車の中に居た。

 既に記憶が曖昧な程、緊張している。


「大丈夫か?ティア」

「き、緊張し過ぎて吐きそうです」

 そう言いながら、下に向けていた視線を前に座るオベロニスに向けたタイテーニアは、眉間に深い皺を寄せた。


「失礼します、オーベン様」

 少し腰を浮かせたタイテーニアは、先程シャイクス家で挨拶した時と同じように、オベロニスの肩を強めに叩く。

「え?既に?」

 さすがにオベロニスも驚いたようだ。


「はい。赤黒いモヤが……恐ろしい執着です。あの、失礼を承知でお聞きしますが、使用人の中にそのような女性は?」

「残念な事に、そのような女性が殆どだな」

 馬車の中に、重い沈黙が降りた。




 シセアス公爵家は、タイテーニアの想像を遥かに上回る規模の大きさだった。

 シャイクス家も決して狭くは無い。

 むしろ平均な伯爵家より、少しだけ広い。

 しかし比較するのが失礼に感じるほど、シセアス公爵家の屋敷は広かった。


 門から邸が見えないのだ。


 これは王族以外の貴族なら、誰と結婚しても相手にとっては玉の輿だわ。

 更に色濃くまとわり始めた赤黒いモヤを見ながら、タイテーニアはそんな事を考えていた。

 モヤの色がまだらに見える。

 赤が濃い部分と、黒が濃い部分。

 複数人のが折り重なっていた。


「ティア、もしこの前の女と同じ位の者がいたら、すぐに私か家令に教えてくれ」

「はい」

「もし二人とも居なかった場合は、執事でも良い」

「はい?」

「大丈夫だ。三人とも信用出来る人間だから」

「はいぃ!?」


 ここでも公爵家は規格外だった。



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