第12話:終わりの始まり ※クズ視点




 俺が、この俺様が、なぜこんな男に見下されなきゃならないんだ!

 俺が俺の奴隷婚約者をどう扱おうか勝手だろうが!


 パティ?

 お前も、何言ってんだ?

 恋人じゃない?逆らえなかった?


 しかも店員に、食事中なのに帰れって言われるだと!?

 ふざけんな!

 こんな店二度と来ないからな!



 怒りに任せて席を立つ。

「パティ、行くぞ」

 奴隷は勝手について来るから声を掛けなかった。

 パティからの返事が無く、ついて来る気配も無いから振り返ると、あの女が!俺の奴隷のあの女が!

 何で他の男の手を取って立ち上がってるんだ!


「な!おい!お前も帰るんだよ!」

 バカ女を連れ帰ろうと手を伸ばしたら、骨が折れるかという程の力で叩き落された。


 ふざけるな!


「お前!一緒に来ないなら婚約は破棄だ!良いのか?うちの援助が無くなるぞ?」

 コイツの家は、俺の家から金を貰ってるんだ。

 共同事業なんて建前で、うちに寄生してるんだろうが!


 しかし、俺の脅し文句は通じず、それどころかこの男のせいで本当に婚約破棄が成立しそうだ。

 ヤバい。

 さすがに勝手に婚約破棄したら、父親に怒られる!

 なぜかうちの両親は、絶対に婚約の解消だけは許してくれないからだ。


 焦ってる俺に、男が追い打ちを掛ける。


 この男は、いや、このお方は、公爵家の当主だった。



 俺は男達に店から追い出された。

 ヤバいヤバいヤバい。

 早く帰って、父親に相談しなければ!

 公爵家が証人で婚約破棄しても、また婚約を結び直せば良いだけだ!

 あんな女、他の男と婚約出来るはずがないし、うちには共同事業という強みがある。


 ん?でも、別に婚約破棄になっても、俺にはデメリットは無いな。

 婚約破棄になれば、援助の必要は無くなるし、共同事業だって、あっちはお荷物なだけでお情けで組んでやってるって、いつも取引先に言ってたよな。


 それにパティを婚約者に出来るじゃないか!

 第二夫人じゃなくて、パティを正妻に出来る!

 良い事くめじゃないか!



 そう思って家に帰った俺は、父親に罵倒された。




 翌日。

 昼を食べたらあの女の家に行くと、父親に言われていた。

 婚約破棄はたちの悪い冗談だと、これからも共同事業を一緒にやるのだからと、王宮から届くらしい書類にサインしないようにするのだと言っていた。


「旦那様!王宮からの使者が!」

 家令が昼食の席に飛び込んで来た。

「何!?昨日の今日だぞ!そんなに早く手続きが終わるわけ無いだろうが!」

 父親が立ち上がって玄関へと走って行った。


 そうそう。そんなに早く手続きが終わるわけないから、婚約破棄とは別件だろうな。

 俺には関係無いと、食事を続けた。

 この後、面倒なあの女との話し合いもあるし、しっかりと栄養を取っておかないとな。


 どうせ貧乏な伯爵家では、美味しくない安い紅茶と不味い茶菓子しか出てこないだろうし。

 うちの、王家へ献上している紅茶と比べるのは可哀想か!



 父親が玄関で「婚約破棄の成立」と「共同事業の解体」と「詐欺と不正行為を調べる為の家宅捜索」を告げられ、家令と共に拘束されていると俺が知るのは、デザートのフルーツを食べていた時だった。



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