第11話:勘違いと、その始まり ※クズ視点




 俺には、婚約者がいる。


 可愛くも、美しくもない婚約者が。


 領地が隣ってだけで、同じ伯爵家ってだけで、俺の婚約者になった女だ。


「何であんなヤツを婚約者にしたんだよ!」

 婚約を結んですぐの時に、父親に聞いた。

「共同事業の為だ。お前も貴族なら政略結婚くらい受け入れろ」

 まだ子供だった俺に、父親はそう言った。


 隣の領は貧乏だ。

 同じ伯爵家なのに、使用人の数も違う。

 国に税金も納められない貧乏人だと、うちの父親や母親がよく馬鹿にしている。



 ある日、あの女の父親がうちに来ていた。

 何を話しているのか、執務室の扉をそっと開けると、うちの父親があの女の父親に、封筒に入った金を投げ渡していた。

「ほら、今月分だ」

 テーブルに投げられた封筒を拾ったヤツの父親は、中を見て溜め息を吐いた。


 俺は、そっと扉を閉めた。

 あの女の家は、俺の家から金を貰っていたんだ!


 何度頼み込んでも、父親はあの女との婚約は解消してくれない。

 顔を見るのも嫌で、会う度にあの女に文句を言った。

 何も言い返さない女は、自分の立場だけはわかっているようだ。


 この女は、俺が何をしても何も言えないんだ。

 なんだ、婚約者だと思うからいけないんだ。

 コイツは、俺の奴隷なんだ。

 そう思えば、婚約も我慢出来た。



 何年か経つと、俺は女にモテるようになってきた。

「あの美味しい紅茶を王家に献上してるんでしょ?」

「あの素敵なティーカップ、いつも品切れで買えないんです」

「あの有名レストランが使ってるチーズって、ボトン家のって本当ですか?」

 女達はそんな事を言って、俺に近付いてきた。


 俺の気を引きたい為に、うちの事業の事を調べて誉めてくるなんて、なんて可愛い事をするんだ。

 その中で1番可愛い子と付き合いだした。

 その時に「婚約者がいるのよね。私、虐められたらどうしよう」と言われたので、あの女を呼び出した。


 目の前で彼女とイチャイチャしても、やはりあの女は何も言えない。

 なんて楽しいんだ!


 女達は、ちょうど俺が飽きるタイミングでいつも「婚約者になれないなら別れる」と言い出す。

 俺は「共同事業相手だから、別れる事は出来ない」とあの女をダシにして、毎回すんなりと別れられた。



 俺に本命の彼女ができた。

 パティだ。

 子爵家の令嬢だが、美しさだけなら公爵家級だ。

 も他の令嬢より多かったが、これだけ美人なら当然だろう。

 俺は、パティを第二夫人にする事に決めた。

 あの女は第一夫人にしてやるが、公の場にはパティを連れて行こう。


 使われていない使用人小屋があったな。

 あの女はあそこに住まわせよう。

 あぁ!俺の未来は薔薇色だ。

 いや、虹色か?



 パティの為にいつもより良いレストランを予約し、あの女も呼び出して、いつものように楽しく過ごしていた。

 この後はパティに宝石を買ってやろう。


 美味しい食事をしながら、パティと会話をして、たまに惨めなを見る。

 今日も惨めで、俺の自尊心を満足させる良い奴隷だな。



 そんな時に、あの男が声を掛けて来たんだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る