第13話:素直過ぎる人達




 昼食を食べて、タイテーニアとオベロニスは庭を散策していた。

「綺麗な庭だが、緑が多いな」

 貴族の屋敷の庭といえば、匂い立つような花が植えてある事が多い。

 しかしシャイクス家の庭は、花が小ぶりの草が多い。

 雑草ではなく、ちゃんと花壇に植わっているのだ。


「あ、それはハーブが多いからですね。自分の家で育てたハーブなら無……安全ですし、新鮮です」

 無料と言おうとして、タイテーニアは言い直した。

「先程の肉料理に使ったのは?」

「あ!これですね。ローズマリー」


 昼食のメニューは、チーズたっぷりのドリアと、若鶏のソテー、新鮮な野菜サラダ、レモン風味のアイスクリームだった。

 野菜やハーブ、果物は庭で収穫したものである。

 勿論乳製品は、自領の牛乳を使っていた。



「安全で、しかも美味しい……か」

「よろしければ株分かぶわけしましょうか?」

「明日にでも、うちの庭師と料理人をよこすから宜しく頼む」

「ウフフ。それでは、先程のドリアのレシピもお教えしないとですね」

 タイテーニアの言葉に、オベロニスはちょっと照れてから「そうだな」と笑った。


 昼食は、空気を読んだタイターニが適当な理由で辞退した為、タイテーニアとオベロニスの二人で食べた。

 三人分のつもりで作られたドリアだったが、オベロニスがほぼ二人分を食べていた。


「すまない、つい美味しくて食べ過ぎた」

 無意識だったのか、空になった大皿を見たオベロニスは頬を染めながら眉を下げ、情け無い声で謝っていた。

「いいえ。料理人にとっては、最高のほまれですわ」

 タイテーニアの言う通り、給仕していた料理人は、最高の笑顔で頷いていた。




 共同事業に関する帳簿などを提出したタイターニは、執務室で書類整理をしていた。

 共同事業では、多岐に渡る品を扱ってきた。

 高山で収穫する紅茶。

 広い牧草地で健康に育てた乳牛の牛乳と、それを加工したチーズ。

 領地の北と南で取れる石や粘土を使った陶器や磁器。


 王都に行く度に自領の製品を店頭で探すのだが、見かけるのは隣のボトン家の製品ばかりだった。

 ボトン家の販路に細々と載せて貰って、やっと売れているのだと言う。

 販路の無いシャイクス家は、ボトン家に頼るしか無い。

「うちの商品もちゃんと売り込んでくれ!」

 一度、製品の質は良いのだからと、頼んだ事があった。

「うちのオマケでやっと売れてんだよ」

 鼻で笑われた。



 シャイクス家が潰れずにいられたのは、妻レアーの実家の伯爵家との共同事業のお陰だった。

 宝石鉱山があるレアーの実家から預かった原石を加工し、宝飾品としてまた戻すのだ。

 その売上の純利益を折半する。

 これにより、国からの借金は返済完了の目処めどが立ったし、領内にお金を使う事が出来ている。


 しかしボトン家との事業が赤字続きの為、自分達の生活は苦しかった。

 ボトン家だけが裕福なのは、共同事業以外で儲けていると言われれば、何も言えない。

 いや一度「それならうちへの借金を返してくれ」と言ったら、「結納金も用意出来なかったくせに何言ってる。逆に借金それは持参金と帳消しで勘弁してやるんだ」と断られた。


 タイテーニアの結婚後の待遇を考えたら、それ以上は言えなかった。

 借金返済を迫ってそれを理由に、将来タイテーニアがいじめられないがしろにされたら後悔するだろう。

 他家に嫁に行った後は、助けてやれない。



「婚約破棄出来て、本当に良かった」

 タイターニは、ポツリと呟いた。



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