第7話:騙され伯爵




「こちらが婚約破棄の書類ですね」

 男性に言われて書類に目を通すシャイクス親子。


『ニーズ・ボトン有責により、タイテーニア・シャイクスとの婚約を破棄とする。

 証拠は充分にあり、異議は認めない。

 これは国王が認めたものであり、覆る事は無い』


「陛下が認めたもの!?」

 思わず叫んだタイターニに、事務的な「はい」という返事が返ってくる。

「署名欄をご覧ください」

 言われて二人の視線が書類の1番下まで移動する。

 空白の署名欄が2つ。

 その下に、国王のサインと印璽が押されていた。


「そこにタイテーニア嬢とシャイクス伯爵のサインが入れば、婚約破棄成立です」

 それは、ボトン家の意思は一切関係無いという事だった。

「慰謝料は楽しみにしていてくださいね。尻の毛まで抜いてやりますから」

 と言って笑った男性は

「おっと、女性の前で下品でしたね」と口に手を当てた。




「それでは、特に援助とかは受けていないですね?」

「はい。そもそもうちが貸している状態ですし、月々渡されるお金は、共同事業の純利益の折半分です」

 男性と父親の会話を聞いて、タイテーニアは唖然とした。

 じゃあ、あのニーズが常に言う「援助してやってる」は嘘だったのかと。


「借金の返済は?」

「今の所一銭もされていません。結納金を貰って無いから当然だと」

 皆が首を傾げる。

「ニーズは婿入り予定でしたか?」

「いえ、タイテーニアが嫁入りする予定でした。うちには後継者が居ますし」

 そう。シャイクス家には、立派な男児が居る。


「それなら結納金は男性側が渡しますよね?」

「私もそう思っていたのですが、格下が格上に渡す物だとボトン家からは言われました」

 そもそもシャイクス家もボトン家も、同じ伯爵家で家格は同じである。

 更に次のタイターニの言葉に、男性とオベロニスの感情が、呆れから怒りに変わった。

「持参金は、借金の帳消しでと言われました」


「借金をした側が、ボトン家だよな?」

「……血の一滴まで搾り取ります」

 あぁ、ボトン家終わったな。

 共同事業はどうなるのかな。

 シャイクス親子は、見えもしない遠い空を見つめた。



 もう何も考えずに、タイターニとタイテーニアは、書類にサインをした。

「今までの共同事業の収支報告書や帳簿をお願いします」

 男性に言われ、ハイハイとすぐに持って来て、素直に全て渡してしまうタイターニ。

 何も後ろ暗いところが無いのだな、とオベロニスが苦笑する。


 オベロニスのシセアス公爵家でも、ここまですぐには提出出来ないだろう。

 仮に完璧な二重帳簿を作っていたとしても、確認作業くらいはしてから持って来る。

 パラパラと見ただけで、男性が黒く笑った。


「これも、この加工品も、この陶器や磁器も元はここでしたか」

 ブツブツと何か言っていた男性は顔を上げると、タイターニにした。

「明日から、共同事業に関する物は領内から動かさない事。何か言われたら「王命である」と言って断わりなさい」

「はぇ?」

「解体後、正当な分配を分捕ぶんどりますからね」

「は、はい」

 分捕るって略奪とか強奪って意味じゃなかったかな~?とタイテーニアは思ったが、口に出すような愚かな事はしなかった。



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