第10話 仕掛けられた罠

伝次郎が見た基地は、実は最後のトラップであった。

本物の基地から80キロ離れた場所に設置された本物そっくりの偽の基地であった。

建物の造りも色も、周囲の風景も本物と見間違える完成度だった。


実際に人間の新兵が、本物の基地と間違えて上官から叱られた事もあった。

GPSを使えば位置の違いなど簡単にわかる時代だが、宇宙空間での核爆発により、衛星のほとんどが破壊され、GPSはすでに使い物にならなかった。

その新兵も地図と地形を頼りに車を走らせてきたので、間違えても不思議では

なかった。


しかし伝次郎にはわずかな磁場の特異点のずれを見分ける力があったのだ。

その為彼は一度は迷ったが、その迷いを振り切り本当の基地を見つけるのだった。


かくして、スタートから11時間54分後に伝次郎は無事に帰還したのであった。

しかし、このテストで帰還したのは伝次郎ただ一羽だけであった。

他の鳩たちはその後、エージェントの手で回収されたが、行方不明になったもの、命を落としたもの、生還したが二度と空を飛べなくなったものが殆どで、任務を続けることが出来そうな鳩は伝次郎を除きわずかに4羽しかいなかった。


この4羽の鳩達は特務機関へ入隊することはかなわなかったが、後にある任務で

伝次郎と行動を共にする仲間となるが、それはまだ先の話である。


国の最重要情報を味方の基地へと繋ぐ、特務戦士は伝説の伝書鳩の一族である伝次郎ただ一羽となった。


すごいぞ伝次郎。お前はやっぱり伝説の伝書鳩伝助の子孫だ。

日本の国の命運は、お前の活躍にかかっている。

がんばれ伝次郎。お前がやらねば誰がやる。

一族の期待と国の命運を一羽背負い、彼の伝説が今始まる。


第1章 完

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