第373話祐君は「代読練習」開始 出版社伊藤さんのお願いで超不機嫌に

祐君は、超マジメなタイプなので、翌日の朝から、早速講演「代読」の練習を始めた。

練習場所は、八幡山の防音スタジオ。

私、春奈も含めて女子全員が、「聞き役」として、参加した。(講演会事務局、出版社の伊藤さんも)


さて、祐君は基本的には美声。

(もちろん、お顔も超可愛いけれど・・・)

問題は、声量がないこと。

(マイク設定で何とかなる、と言っても)


大きな声が出ないわけではない。(良く通る声)

しかし、続かない、すぐにタドタドしい感じになってしまう。(それも、いい感じであるけれど・・・ちょっと講演には向かないかな)


祐君も、それを気にしているのか、原稿を読みながら、何度も咳払い。(可哀想なほど)

「テンポかなあ」

「ゆっくり読むと、息が持たない」

「もともと、秋山先生のガチガチ文を口語体にしただけ」

そんなブツクサ言う顔も、面白いけれど、30分ぐらいしたら、真由美さんが動いた。


祐君の後ろに立って、背中をポン。

「祐君、胸張ったほうがいいかも」

「息を吸えていない、ブレスが弱いかな」


祐君は、素直に、背筋を真っ直ぐ、胸を張った。

そうしたら、声の張りが出た。

(やはり、身体も楽器なんだね、姿勢が大事)


かなり聞きやすくなった時点で、出版社の伊藤さんが原稿読みをストップさせた。

伊藤さん

「あまり練習し過ぎても、喉が荒れるよ」

「本番でガラガラ声は意味がない」


(祐君は、不安そうな顔)

「大丈夫かな・・・これでいいの?」


伊藤さんは、苦笑。

「問題ないよ、秋山先生の講演も、あまり聞いていない」

「講演原稿の言葉が難し過ぎて」

「秋山先生の名前で、聞きに来るだけ」


そんな話で祐君を落ち着けた後、伊藤さんは、別の話題。

「ねえ、祐君、今度源氏物語に関係する社寺とかのグラフ誌を作るの」

「その撮影と文を森田事務所にお願いしようかと思っているの」

「御所は、宮内庁にも内々に許可をいただきました」


祐君は、例によって慎重。

「御所と言っても・・・」(そこから問題視?)

「紫式部の時代の御所の場所は西陣かな」

「その後は、火事で動いていますよね」

「里内裏がそのまま御所になったわけで」

(里内裏:平安宮内裏以外の邸宅を天皇の在所:皇居として用いたもの)

「同じ京都と言っても、微妙に目に入る山とか、違う」


(・・・つまり、やりたくない空気、を漂わせている)

(古今と万葉だけで、もう苦しいと思うよ、祐君)

(それなのに源氏のグラフ誌となれば、かなり重い)

(音楽もあるし、大学の勉強もある、受けたら祐君はパンクする・・・もう壊したくない)


しかし、出版社伊藤さんは、粘り強い。

「森田事務所に頼めば、彰子先生も参加するでしょ?」

「それに加えて、祐君も参加しようよ」

「文が嫌なら、光源氏のモデルで、どうかしら?」


祐君は、機嫌が悪くなった。(もう、明らかに)

「お断りします」

「僕は、無関係にします」

「講演会の代読も一回だけです」

「次からは、別の人にお願いしてください」


・・・そのまま、荷物をまとめた。

女子全員に声をかけた。

「僕は帰る、みんなもスタジオを出て」(かなり強め)


出版社の伊藤さんは、オロオロとなっている。


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