第353話真由美 春奈 平井恵子の感想 祐の大ボケ

私、真由美はコスプレ朱里さんを撮影しながら、完全に乗った。

貸してもらった撮影機材が森田哲夫事務所の最高のもの、それだけではない。

とにかく、朱里さんが作る表情が、息を呑むほど、可愛いし、美しい。

(撮影している私が、胸がドキドキ、足もフワフワするくらい)


ちょっと悩むような、伏し目がち。

ふっと笑う、少女の顏。

遠くを見つめる澄んだ目。

鞄を持って歩く時の姿勢の良さ。

ツンと胸も盛り上がって、脚もきれい。

接写して、驚くほど、肌が美しい。


音楽は、祐君の見立て通り、モーツァルトが合っている。

やや土臭いベートーヴェンの雰囲気はないかな。

他の音楽も試してみたい、それほど朱里さんの雰囲気がいい。

(なんか、朱里さんを好きになっちゃったみたい・・・あぶないかも・・・)



私、春奈も、朱里さんとモーツァルトの映像詩に惚れた。

モーツァルトの40番をBGMに、基本的な背景と表情の指示は、こんな感じだった。

第一楽章:校舎前。憂いを含んだ美少女。(気高さを感じた)

第二楽章:音楽室。フッと見せる笑顔。(華やぐなあ・・・見ている私たちの雰囲気まで、上品に染まった)

第三楽章:並木道。焦ったような厳しめの顏。(何があったの?ドキドキすくらいに美しい)

第四楽章:音楽ホール。何かを決めたような、キリッとした顔。(ここで全員が、見惚れて声が出ない)

朱里さんは、確かに、古文では、まだまだ。

でも・・・朱里さんの、あのビジュアルは・・・ヨダレもの。

(コスプレだけが理由ではない)(カメラを前に、朱里さんの才能が開花したのかも)


平井恵子先生も、じっと見とれている。(見惚れている?)

恵子先生は、次期勲章受章予定者の大文学者だけど、こういう文化も大好き。

とにかく、感性が自由で、若々しい。(だから弟子入りした)

でも・・・何か言いたくなったのかな、朱里さん、真由美さん、祐君を何度もチラ見している。



私、平井恵子は、若い人たちと、いるのが好き。

特に今日は祐君と若い美女たちと一緒。

(何が出て来るのか、ワクワクが止まらない)

朱里さんをモデルに、音楽は祐君がモーツァルトの40番を指定、撮影は森田哲夫事務所で、美大生の真由美さんがする・・・と言うのだから、これは注目した。


確かに・・・夕暮れの色、透明なワインレッドの世界、モーツァルトの40番、憂いを含んだ美少女(女子高生)は、完璧だった。(四楽章とも、背景、朱里さんの表情、動き)

でも・・・完璧過ぎて・・・文句がつけられないけれど・・・

もう、一ひねり、何かが欲しい。(これは、これでいいけれど)

だから、祐君に声をかけた。

「このままに?」


祐君は、うなった。(図星だったらしい)

「そうなんですよね、音楽も背景も朱里さんも、すごく合っています」

「ただ、スタジオでの試作なので、まだ薄いかも」

「ロケで、本物の背景にすれば、また表情も変わるかなあ」

「風があると、髪の毛も揺れて、雰囲気が違う、それもある」

「40番と、朱里さんは変えたくなくて」


私、平井恵子は、祐君の反応が正解と思った。

撮影も中断していたので、女子全員を集めた。

「この映像詩、もっと、進めましょう」

「私も応援します」

「実際の詩とか、和歌、源氏、枕草子をテロップにしても面白いかな」


純子さんが反応した。

「撮影旅行も楽しいかもです」

真由美さんは、パッと顏が輝く。

「あの・・・東北ってまだ行ったことなくて、例えば、岩手の遠野村とかは?」

朱里さんは、顏がまだ赤いままだ。

「岩手だと、啄木とか、宮沢賢治もいますよね・・・花巻?」

春奈さんも笑顔。

「いいなあ・・・一握の砂・・・銀河鉄道の夜・・・」


ただ、祐君は困っている。

「愛奈からの提案だったからさ」

「愛奈は、雨にも負けずに合わない」

(このボケた返しに、全員が大笑いになっている)

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