第336話お見舞い品のこと 祐君の辛さ

講義は午後3時に終了。

私、田中朱里と純子さん、祐君は、森田哲夫先生(祐君パパ)の神田事務所に向かう。

(もちろん、真由美さんも呼んだ)

(最近は、真由美さんとも、仲良しだ、いい感じのスッキリした人)


それはともかく、祐君が気になった。(都営新宿線内で、何かしきりに考えている)

純子さんも気がついた。

「どうしたの?」と、すかさず聞く。(この時々の速さが、侮れない)

祐君は、真面目顔。(真面目顔でも、お人形さん)

「夏服買おうかなと」

「で、一人でいいよ、時間かかっては悪いし」


でも、そんなこと認められるわけない。(君は、保護監視対象なの、退院直後だし)

「だめ、選んであげる」

純子さんは、怒った。

「もう少し、みんなの心配を察しなさい、また何かあったらどうするの?」


ショボンとなった祐君に、私たちは追撃をかけた。

「水着買おうかな、祐君、見てくれるよね」

純子さん

「新宿でも、渋谷でもいいよ、真由美さんも行くよ」

祐君は、マジに焦った。

「水着を?それ恥ずかしい」


だから、また攻撃開始。

「モデルさんの水着は見て、私たちは見ないの?」

純子さん

「無理やりでも見せるよ」(そこで豊胸をさらに張っているし・・・)


そんなやり取りもあったけれど、結局祐君には、軽く流されて、森田哲夫先生の神田事務所に入った。(いつ来ても、シックなビルで、神田の街の喧噪とは別世界)


上品な大人女性の柏木紀子さん(森田哲夫先生の昔からのアシスタントで、今は事務所のチーフ)がお出迎え。(祐君もうれしそうに握手している・・・私たちより安心顏)


柏木紀子さんが、「お見舞いの品目録」と、現物を見せてくれた。

まず、食品類は、冷蔵庫と冷凍庫。

純子さんの実家からの「奈良銘菓詰め合わせ、飛鳥鍋(牛乳鍋)セット」

真由美さんの実家からの「博多めんたいこ、博多の通りもん(有名なお菓子)、長崎カステラ、フグ鍋セット」

私の実家は「定番の味噌煮込みうどん、坂角の海老煎餅、ういろう、手羽先」

春奈さんからは「深大寺そば、モロゾフのチョコレート詰め合わせ」

(まあ・・・特に女子たちは、祐君のお見舞いにかこつけて、自分も一緒に食べたいのだ)

ジュリアは、さすが・・・演奏会のプレミアムシートと、マキシムドパリの焼き菓子。(恐れ多い・・・食べるのにドキドキする)

平井恵子先生は、フルーツ盛り合わせ。

中村雅代先生は、ゴディバチョコの盛り合わせ。

秋山康大先生は、「天皇家からいただいた、源氏物語若紫・・・藤原定家筆写のもの」

(これには、平伏しそう・・・マジに天下の稀本だもの)


祐君

「少しずつ持って行くかな」

「アパートの冷蔵庫に入らない」(・・・確かに、大きくない)

柏木紀子さん

「ところで今夜は何を?」

「車で送ってもいいよ」

祐君は、ゴディバチョコセットと、味噌煮込みうどんセットを選んだ。

常温で保存できるものは、車に乗せて運ぶことも決まった。

ただ、秋山大先生からの貴重な本は、森田哲夫事務所の頑丈な金庫にしまった。

(とても、学生アパートには置けない・・・納得)


その後、祐君は、柏木紀子さんが、作ってくれたお礼状を読んだ。

「これでいいよ」とあっさりと返した。

「ゴチャゴチャ書くより、定番がいい」も付け加えた。

「事故の経緯は、書きたくない」と、難しい顏だ。


いまだに、「犯人」の高校からも、犯人からも、その親からも、謝罪の一言もない。

SNSで大炎上しても、マスコミの全国ニュースに流され批判されても、何もない。

都の教育委員会と高野連(既に脱退させられた)に、謝罪しただけだ。


寺尾弁護士さんが言っていた。

「謝罪会見を公に開くと、メチャクチャに、責め立てられる」

「それを怖がって、開かない」


私、田中朱里は、そんな連中に殺されかけた祐君を可哀想に思う。

事故の経緯なんて、とても書けるはずがない(まだ、決着がついていないのだから)

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