第335話講義に集中できない祐 ジュリアとの嵐の夜の真相 神田事務所からの連絡

祐は、午後の「経済学:大教室」の講義中は、いろんな思いで、全く集中できなかった。


ジュリアの心配してくれている気持ちは、実にうれしい。

しかし、それ以上に、ピアノが上手に弾けなかったことが、悔しく、ショックだった。

モーツァルトの第一楽章は、指が鉛のように重かった。

だからジュリアが目で「大丈夫?」と聞いて来たのは、申し訳なかった。

気合を入れ直して、指を動かした。(決して、事故前のような指の軽さはなかった)

第二楽章からは、ようやく肩から指への筋が、落ち着いてつながった感じ。

やっと意図した通りに指が動いて、自分でも安心した。

演奏が終わって拍手を受けたけれど、聴衆には「申し訳ない」との気持ちで、頭を下げた。


不安もある。

次の演奏で、「また指が動かなかったら」と思うと、背筋が冷たくなる。

不安を解消するには、練習するしかないことは理解している。


少し別の反省もある。

怪我や病気で、身体に何らかの障害を持った人を見掛けることがあっても、あまり積極的に見なかった。(関心もなかった)

「でも、すごい不便を背負って暮らしている」

「僕は、少し指が動かなかっただけで、こんなにショックなのに」


明日の夜、ジュリアの家に呼ばれたことは、素直にうれしい。

多少、抱きついて来るけれど、あまり気にしていない。

(単なる、じゃれあいと思っているから)


嵐の夜は、結果的に抱き合って眠った。

ジュリアは、雷恐怖症で、あそこまで震えて泣くとは知らなかった。

停電で京王線は止まり、雨も激しかった。(とても歩いて帰る状況ではなかった)


一緒のベッドに入った。

ジュリアは、大柄で豊満な胸。(寝る時は、ブラはつけないとか、平気で言った)

でも、見なかった。

そのまま抱かれたから。

雷が鳴るたびに、すごく締め付けられた。(実際、3回目で背骨が痛かった)

(胸肉クッションが無ければ、背骨が折れそうだった)


雷がおさまって来て、ジュリアは騒ぎ疲れてスヤスヤと眠った。

でも、腕は解けない。

仕方ないので、そのまま眠った。(胸肉クッションは、ようやくいい感じになった)


朝は、息苦しさで、目を覚ました。

ジュリアの胸の谷間に顏が埋まっていたから。

こういう「イタズラが好き」は知っている。

柔らかそうで、張りがある胸肉。(・・・ここで胸肉評論をしても仕方がない)

必死に顏を動かして、脱出を試みる。


「くすぐったい」

「もう少しこのままに」

「ほら!動かさない!」

「日本に来たら、祐をこうしたかった」

「毎朝、こうしたい」


思い出せば、ジュリアの言葉は、容赦なかった。

「明日の夜はどうなるのか」そんなことを思っていると、森田哲夫神田事務所の柏木紀子さんから、メッセージが入った。


「祐君、お見舞いの品が、神田事務所に集めてあるの」

「そろそろ、整理を」

「食材も賞味期限があるから」

「それから、お礼状は準備したよ、祐君が文面をチェックして」


祐は、柏木紀子さんが好きである。

子供の頃から、仕事のできる「信頼できるお姉さん」。

今は、それなりの年齢、でも上品でやさしい。

すぐにメッセージを返した。

「わかりました、授業が終わって、3時過ぎに行きます」


純子と朱里が、スマホを覗き込んでいた。

二人から、同時に手を握られた。(つまり、神田事務所に一緒に行く、意思表示)


祐は、ジュリアの時以上に、顏を赤くしている。


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