第324話祐は意識混濁 健治の強気 祐は復活?

祐は、姉瞳の問いかけに、一旦は反応したけれど、また意識を失ってしまった。

血圧は上が70前後で、脈も弱い、意識は混濁、危険な状態が続いている。


診察した医師の見解では、最初に、顎への金属バットによる打撃で脳が揺れ、道路に倒れた時にも頭を打った、その後低速ではあるけれど、車にはねられた、その様々な衝撃が重なっているとのこと。


医師は厳しい顔を変えない。

「全く、いつ、どうなっても不思議ではない状況が続いています」

「昨日も申し上げましたが、生き返るかどうかは、本人の生命力次第です」

「お姉さまに、多少でも反応したのは、偶然にすぎません」


少し間を置いた。

「何かのきっかけで、それに反応して、回復するケースもあります」

「まだ、若い男の子ですから、その可能性が高いかもしれません」


結局、当面は、姉瞳が泊まり込みで対応、父哲夫と母彰子は、急変の場合、すぐに駆け付けられるように、渋谷のホテルを長期予約することになった。

尚、純子、真由美、田中朱里、春奈も姉瞳をフォローすると申し出て、ありがたく受け入れられた。(姉瞳は、祐の悪口とは違い、フランクな性格。あっという間に親しくなっている)

愛奈も、付添を切望したけれど、病院側から断られた。(大騒ぎになる、という理由で)



二日目になっても、犯人健治の態度や発言に反省は見られない。

「おいーーー!」

「何で俺が警察に泊るの?」

「ありえなくない?」

「これ・・・人権侵害だって!訴えてやる」

「俺は、無実なのに!」

「おい!警察!さっさと釈放しろ!」

「馴染みのブンヤ(スポーツ新聞記者のこと)に言って、酷い取り調べって、書いてもらうぞ?いいのか?お前、クビになるぞ?」

「なんでもいいから、さっさと出せよ!おい!このジジイ!」

「日曜日に大事な試合があるって言ってんだろ!」

「スカウトも見に来るし・・・」

「監督も部員も待たせるわけにはいかねえんだ!」

「俺がいるから、勝てる、いなければ、ボロ負けなんだからよ!」

「おい!ジジイ!何とか言え!このバカ野郎!」



事件(事故)の翌日、午後2時に、再び、祐に変化が起きた。

お見舞いは、源氏物語の大家(文化勲章受章者)秋山康、美代子夫妻。

森田哲夫、彰子は連絡を受けていたので、恐縮して迎えた。

また、純子、真由美、田中朱里、春奈、平井恵子も同席。

(尚、祐は病院側の配慮で、一番広い個室に入っている)


森田哲夫は、深く感謝。

「昨日は、気持ちが動転しておりまして、しっかりとご挨拶もできずに申し訳ありません」


彰子は、秋山康が師匠、妻美代子も含めて30年もの付き合いがある。

二人を前に、大泣きになってしまった。

「先生・・・もう・・・ごめんなさい」

「祐が・・・心配をかけまして・・・」


秋山康は、彰子の肩をトントンと叩く。

「大丈夫、祐君は目を覚ましますよ」

「そうでないと困る」

「私の後継は、祐君なのだから」


秋山康の妻美代子は、彰子を抱いた。

「康は、本気よ」

「何が何でも、祐君を生き返らせる」

「久しぶりよ、私も康の本気の目」


彰子が、驚いていると、秋山康は、祐の手を握り、語り掛ける。

「祐君に託しますよ」

「祐君なら、わかるでしょう」

「お願いしたいこともある」


祐の唇が、少し動いた。(声は出ない)

秋山康自ら、紫の風呂敷を解き、一冊の古文書を祐の胸に置いた。


祐の鼻が、少し動いた。

目も開き、言葉も出た。


「梅花?」(言葉も、はっきりしている)

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