第320話「犯人」健治には「反省」はない 姉瞳は号泣
夜になった。
「犯人」健治は、「犯行」は認めたけれど、「反省」については、全くない状態が続いている。
「確かにボールとバットは投げた」
「死んでもかまわないと思った」
「俺の美咲が、待ち受けに、あの野郎の写真を使っているのが気に入らねえから」
「あいつが死ねば、美咲も反省すると思って」
警察官が美咲から聞いた話として、
「美咲が祐とデートをしたのは、一度だけ、しかも美咲が無理やり迫った」
「美咲も、健治への思いはない、声をかけ続けられて迷惑だった」と説明すると、ますます激高した。
「だから、死んでもかまわねえんだ!」
「俺の美咲を取りやがって!」
警察官は、健治の理解力の低さに、手を焼いた。
「だから、彼と美咲さんは、何の関係もない」
「そもそも、彼に、その気はない」
「むしろ、美咲さんを避けていた」
健治は、ますます機嫌が悪い。
「うるせえ!俺の美咲をコケにしやがって!」
「さっさと、死んじまえ!」
警察官の呆れ顔に、健治は、ますます増長した。
「ボールをかわしやがって!頭に当てるつもりで、思いっきり投げたのに」
「そしたら、あいつの近くにいた女が写真を撮ろうとしたから、ムカついた」
「だから、女も気に入らねえ!バットも思い切り、ぶつけようと投げた」
「そしたら、あのバカ野郎が、しゃしゃり出て来やがって、しかもバットを顎で受けて笑えるよな」
「バットは手で持つもの、そんなことも知らねえのかって・・・大笑いだ」
「それで道路に倒れたのも笑える、情けねえ・・・女をカッコつけてかばうから、そんな馬鹿なことになる」
「その後、車にはねられた?」
「そんなの知らねえ、俺がはねたわけではないだろ?俺の責任じゃない!」
「だから、あの馬鹿野郎が死んでも、あいつの自己責任、俺は無罪放免」
「なあ、さっさと出してくれよ」
「今度の日曜は、練習試合だ、部員も監督も待っている」
「何しろ、甲子園目指しての大事な練習だから」
・・・・健治は、ますます、自慢げに話し続けている。
(罪の意識と反省は、全く見られない状態で)
祐の状況は、夜になっても変わらない。
父森田哲夫は、祐を心配して集まって来た全員に深く頭を下げて、帰らせた。
「今夜は、家族だけで、見守ります」
「もしものことがあれば、連絡をさせていただきます」
確かに、病院に大人数が残り続けるのも、他の患者に迷惑。
家族以外の全員が、不安を抱えながら、帰って行った。
父哲夫は、ようやく、眠り続ける祐を、ガラス越しに(病室とはガラスで仕切られている)ゆっくりと見た。
「純子さんの話だと、投げられたボールは、すごく速くて、祐が叩き落さなければ、前を歩いている小学生に当たって怪我をさせたかもしれない」
「それから、金属バットは、真由美さんに投げつけられたのを、祐がかばった」
「でも、金属バットはコンクリートに落ちて、不規則に跳ね上がって、祐はかわせなかった」
「道路に倒れたのを、救えなかったと、泣いていたよ」
母彰子は、グッと涙をこらえている。
「もし・・・このまま天国に行っても」
「人をかばって死んだ、それなら・・・」
「葬儀屋とお寺さんの手配も考えましょう」
しかし、姉瞳は、ボロボロと大泣き。(ほぼ、言葉になっていない)
「嫌・・・嫌・・・」
「何で、そんな死ぬ話?」
「祐は生きているよ」
「母さん!勝手に殺さないでよ!」
「母親が子供を見限って、どうするの!」
「嫌だ・・・祐・・・」
「死んじゃ嫌」
「祐が・・・何の悪いことをしたの?」
「本当は、強い祐だよね・・・」
「だから、かばって、一生懸命人をかばって・・・」
「死んじゃだめ、祐!」
姉瞳は泣き崩れ、その瞳を、父哲夫が、支えている。
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