第319話「犯人」の自供と動機 祐は極めて危険な状況

「犯人」は、通行人数人によって、すぐに取り押さえられた。


(祐は、意識不明のまま、救急車で近くの大学病院に搬送された)(通報は、純子が冷静に行った)


「犯人」は、祐の従妹恵美が通う高校の野球部のエース健治だった。

健治は、警察の取り調べで、素直に犯行を認めた。

(通行人や、純子、真由美、朱里、春奈の証言に加え、街灯に設置してあったビデオ動画で一目瞭然だったことが決め手だった)

ただ、健治は犯行を認めても、全く悪びれる気配はない。(出された弁当もペロリと平らげた)


警察が犯行動機を尋ねた答えとしては

「俺の女の美咲のスマホの待ち受けが、祐とかいう、知らない男だったこと」

(尚、美咲⦅恵美と健治の同級生⦆は、恵美に伴われて警察署に来たけれど、健治の「女」を完全否定している)

「なかなか、美咲がデートに応じないから、祐とデートをしていると思って、ムシャクシャしたから、こらしめようと襲った」

「殺意は、死んだら死んだまで、と思っていた」

「俺の美咲を奪った男が、憎らしかった」


警察が、祐の居場所を知った理由への答えは

「美咲のスマホを、カラオケに連れ込んだ時に、取りあげて詰問」

「美咲から、白状させて、約一か月探し回っていた」


警察は、「計画的な犯行の意図の有無」を、さらに聞いた。

健治の答えは

「それは、計画的だ」

「俺の美咲を奪ったのだから、殺してもいい、と思った」

「俺のメンツを汚したのだから、死ぬべきだ」


警察は、一旦、健治の取り調べを中断。

健治の両親、学校関係者(野球部監督)に、「健治の嫉妬(誤認)による、計画的な犯行、悪意性も極めて高い」と説明を行った。

健治の両親は、弁護士も連れて来ていたけれど、証人の証言、防犯ビデオの録画に加えて、健治自身の悪意のこもった自供と、反省の意思がないことから、頭を下げるしかなかった。



祐の家族への連絡は、従妹恵美が行った。

(今は、父哲夫と母彰子、姉瞳は新幹線に乗っている)

アルバイト先への連絡は、純子と春奈。

秋山康先生と奥様、平井恵子先生は、既に病院に到着。

大学の佐々木教授も到着。

ヴァイオリニストのジュリア、ピアノの先輩の村越。

ピアノの師匠の中村雅代も、到着。


警察から恵美に付き添われて病院に到着した美咲は、蒼い顏。

「私が、待ち受けにしなければ・・・」


「事情」を知っている恵美と純子が、女子たちに説明してあったので、女子たちは美咲を責めない。(祐は上京直後の時期に、恵美に仕向けられて美咲とデートをしたけれど、祐は美咲に「付き合っただけ」何の興味も示さなかった、その後も何も無いこと)


桜田愛奈は、純子からの連絡で、撮影を途中でキャンセル。

スッピンで、駆けつけて来た。(すでに大泣き)



祐の父哲夫と母彰子、姉瞳が病院に到着して、約10分後、集中治療室から、祐を診察していた医師と看護師が出て来た。


駆けつけて来た多くの人に驚きながら、祐の状態を説明した。

「不幸中の幸いであれば、いいのですが」

「何の骨折もなく、強い打撲だけです」

「内臓にも、損傷はありません」


そこまで言って、間を置いた。

「ただ、打撲のショックが強かったのか、意識がありません」

「血圧も上が65から70前後で、下がりつつある傾向」

「脈も弱まっています」


「持ち直すかどうかは、本人の生命力次第です」

「これからも誠意を尽くして治療、見守りますが、助かるかどうかは、かなり厳しい状況です」


医師と看護師は、再び集中治療室に戻って行った。


森田哲夫が、家族を代表して、集まった一同に深く頭を下げた。

「祐のために、お集りいただき、誠にありがとうございます」

「医師の言った通りでありまして、諦めたくはないですが、難しい状況です」

森田哲夫は、ここで、少し詰まった。

「・・・何があっても、祐のことを・・・こんなに心配してくれて」

「親として、うれしい限りです」


集まった一同に、すすり泣きが広がっている。

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