第276話演奏の後で 祐君は、杉田香織を許す

祐君のモーツァルト(ピアノソナタ)が終わった。

私、田中朱里が祐君に向かって一歩進んだ時だった。


信じられないことが起こった。

祐君に寄せられる、ものすごい拍手の中、あの杉田香織が小走り。

あっという間に、祐君の前に立ってしまったのだから。


これには、私も純子さんも「不穏な予感」しかない。

それと、かつての「事件」を知る聴衆も身構えてしまった。

マスターも、祐君を「守る」意思があるので、祐君と杉田香織のところに動き出す。


すると、杉田香織が、深く頭を下げた。

「いろいろ、ごめんなさい!」

「感動しました!」

少し高め、涙混じりの声。


祐君は、落ち着いている。

「こちらこそ、聴いてくれてありがとうございます」

少し間があった。

「頭を上げてください」


杉田香織は、ハンカチで目を抑えながら、祐君を見た。


祐君は、やさしい顔。

「もう、けんか腰はやめましょう」

「それぞれの道で、ベストを尽くしたほうがいいかなと」

「僕も楽しい大学生活にしたいので」


杉田香織は、その言葉で腰が抜けたような感じ。(マスターが抱きかかえた)



そんなやり取りがあったけれど、祐君たち演奏者と、純子さんと私、風岡春奈さん、平井恵子先生、それから桜田愛奈ちゃんは、別室(2階の防音室)に集まった。


(なんのことやらわからない、ジャンとジュリア、村越さんには、私と純子さんが、杉田香織とのことを、かれこれと説明した)


ジャンは苦笑。

「祐君がモテ過ぎなんだよ」(その通り!何とかしてもらいたい)

村越さんは、祐君の肩を揉む。

「でも、立派だよ、祐君、許すのは器量が大きい」(・・・それはそう思う、でも、私たちには、杉田香織は邪魔だけど)

ジュリアは、また祐君の顏を美乳に包み込む。

「何でも、ジュリアお姉さんに相談しなさい」(・・・しっかり、めり込んでいるし・・・)


少しして、祐君はジュリアの美乳から、解放された。(赤い顔だ、まったく!)

それでも、ようやく言葉を出した。(ただ、発言は祐君らしい)

「フル―トはフルートなりに面白い演奏が出来たのかなあと」(おいおい!杉田香織は?ノーコメント?)

「最後のモーツァルトは驚いた」


ジャンは、笑顔。(超大物指揮者のオーラがある)

「いいフルートだね?誰かについたの?」


その答えは、村越さんだった。

「独学だよね、楽器屋さんで買っただけ」

「一緒に行った、あの時のフルート」

祐君は、自慢げに、含み笑い。

「値段29,800円・・・40,000円を値切った」(自慢するほどのこと?)

「お年玉全額使った」(つつましい生活?でもいい感じ)


ジュリアが祐君に聞いた。

「レッスンにつく気はあるの?」

祐君は、笑顔で首を振る。

「古文もピアノも、フルートも大学の勉強もって、無理」

「今日だって、フルートは3か月ぶり」

「本格的に吹いたのは・・・ 1年以上前」(それも、すご過ぎ)


ジャンが祐君の肩を抱く。

「また、やりたいね」

祐君は、天使のような笑顔。

「ありがとうございます、こんな素人と」

ジュリア

「次はボサノバにしよう」


祐君は、ジュリアにクールサインを出している。

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