第250話東京赤阪サントリーホールにて②

自他ともに認める名古屋嬢の私、田中朱里は少し舞い上がり気味。

クラシック音楽の日本の聖地、東京赤阪のサントリーホールで、本物、本気のオーケストラを聴いているのだから。(もちろん、名古屋にも東京や外国のオーケストラも来る、でも、所詮は田舎都市なので、メンバー的に代役が入るなど、手抜きが入る:本物は都内に残る、あるいは日本の観光をするらしい)


残念ながら、ジャンケンに負けたので、祐君の隣席ゲットは失敗した。

少々「胸の谷間見せつけ」ドレスなので、祐君に「目の保養」をさせたいと思う。

(・・・でも、見てくれないし・・・鈍感男?)


演奏が始まる前のロビーでは、祐君は人気者だった。

ジュリアもきれい、ジャンも立派(神々しい!)。

今日のソリスト(パリのピアノコンクール第1位)の村越さんが、祐君の兄弟子とは知らなかった。(祐君は、言う性格でもない・・・って古文に必死で、余裕がなかった)(親しそう・・・評価もされているみたい)


気になったのは、杉田香織の怒りを帯びた目。

自分が全て悪いのに、結局、反省していないのが、よくわかる。

(・・・また面倒にならなければ、いいけれど・・・)


動画サイトでも、祐君は有名になっている。

あの可愛らしいビジュアルと、ピアノの腕、評価はうなぎのぼり。

だから、今日も見つかった。

(面倒になるから逃げたほうがいい)


祐君も、その雰囲気を察して、客席に逃れた。

ラッキーなのは、ジュリアが用意してくれた席が、かなり特等席(料金的にも、だから杉田香織も、にわかファンも近寄れない)。


エグモントも凄かった。

「皇帝」も感激。(祐君の皇帝も聴いてみたいなあと・・・でも、やらない、慎重派だから)


祐君の従妹の「恵美ちゃん」にも、興味ある。

恵美ちゃんは、スタイルを気にしているらしい。

(一度お話したいなあ・・・教えられることもあるかも)


さて、そんなことを考えている時間は終わった。

あの高名な指揮者ジャンがステージ中央に。

かの名曲「田園」を振り始めたのだ。


「うわっ!天国?」

第一楽章の出だしから、聴衆の顏が、和らいだ。

ジャンは自由自在な振り方。

オーケストラも、華やかな音。

終楽章まで、誰も咳一つ立てない。

ベートーヴェンの大きくて、深い世界に包まれることができた。

芸術?そんな陳腐な言葉では言い表せない。

本物の感動を味わったのである。


全ての演奏が終わって、私たちは、楽屋に行った。

もちろん、チケットのお礼をジュリアに渡すため。


お礼は、祐君の発案

「超高級チョコレートの大箱」(全員でお金を出し合った)


ジュリアは、メチャ喜んだ。

泣き顔になって、祐君を思いっきりハグ。(祐君は痛そうな苦しそうな感じ)


でも、祐君はやさしい。

「おめでとう!ジュリア、良かった」

ジュリアは、うれしさ余って、また強烈ハグ。


そんなことをしていると、ピアニストの村越さんが祐君の前に。

「祐君・・・やっちまった」と悔しそうな顔。

祐君は器用にジュリアの胸から脱出。

「途中からは、本領発揮、安心した」と笑顔で慰める。

村越さんは苦笑い。

「もっと練習しないとなあ・・・」

祐君は、可愛らしい笑顔。

「今度フルートもまた吹こうかなと」

村越さんの目が輝いた。

「あ・・・あそこのバー?」

「俺も入る、いい?」


祐君は、クールサインを出している。

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