第227話オーケストラ部の処分 恩師中村雅代の登場

大学の理事会にて、オーケストラ部顧問の尾高の解雇と、オーケストラ部の無期限活動停止が決定した。

いずれも、祐への威圧的言動、祐を追ってのバーでの暴行(警察沙汰、暴行を働いた吉野は退学処分)、オーケストラ部顧問尾高の祐に対する無神経な発言が問題視されたのである。


祐は、その決定を佐々木教授に呼ばれて、教官室で聞き、顔を曇らせた。

「すごいことになったのでしょうか」


佐々木教授は首を横に振る。

「祐君は、何も悪いことをしていない」

「気にすると、話がおかしくなる」

「いずれにせよ、動画が拡散して、オーケストラの評判が悪い」

「とても練習できる状態ではないの」


教官室を出て、純子と一緒に歩いていると、ヴァイオリンの杉田香織とすれ違った。

祐は、何を言ったらいいのかわからないので、目を伏せる。

それでも、杉田香織は謝って来た。

「ごめんなさい、いろいろ」

祐は、また答えに困る。

「あの・・・もう、それは結構です」

「僕の力では、どうにもならない」

杉田香織は、涙顔。

「いつか、一緒に演奏して」

祐は軽く頷く。

「その機会がありましたら」


杉田香織と別れて、ライブバーに行った。

マスターの怪我も治っていた。

祐は、ここでは頭を下げるべきと思った。

「いろいろと、僕のために」


しかし、マスターは笑う。

「気にするな、祐君がいなくなる方が嫌だ」

「また、演奏してくれ」

祐は、ホッとした。

「ずっと気にしていました」


厨房から、奥様も出て来た。

「この人も、演技が上手くてね」

「ほとんど、どうでもいい怪我」


そんな話をしていると、ライブバーのドアが開き、上品な女性が入って来た。

奥様の目が丸くなった。

「あの・・・中村先生?」


その「中村先生」で、祐も振り返った。

そして、カウンター席から降りて、直立不動。

「雅代先生!お久しぶりです」

「森田祐です」


入って来たのは、日本が誇るピアノの大家「中村雅代」だった。

(祐は、子供の頃からレッスンを受けていた)


中村雅代は、祐を見て、両腕を広げて、思いっきり抱きしめた。

「祐君・・・偶然?」

「私も逢いたくてねえ・・・何度もこの店には来たのよ」

祐は、涙ぐんだ。

「連絡してくれればいいのに」

中村雅代も涙ぐんだ。

「だって、祐君も忙しそう、邪魔したくなかった」


少しして、祐は純子を紹介する。

「アパートの隣の純子さん、偶然大学も学部も同じで、奈良の和菓子屋さんのお嬢様」

「去年の夏には、お父様と言お母様にも、お世話になりました」


純子も自己紹介すると、中村雅代は、純子もしっかり抱きしめる。

「ありがとうね、純子さん、祐君をお世話してあげて・・・時々弱くて心配なの」


純子が「はい!」と大きな声で答えると、中村雅代は、祐を手招き。

「あのね、7月にリサイタルをやるの」

「チケットですか?」


中村雅代は、含みのある笑いを浮かべている。

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