第202話祐の困惑と罪悪感

真由美との「一件」の後、祐はまず困惑、そして罪悪感に満たされた。


「何故、真由美さんが?」で、困惑。

そもそも、真由美に抱きつかれる理由は、ないのだから。


祐にとって、真由美は


アパートの隣人。

大宰府の義夫叔父さんの家の近所に実家がある人。

結果的に誘ってしまった、アルバイトの同僚。


であって、「抱きつかれるほどの好意」を示される対象ではないと思う。

街を歩けば、自分より魅力的な男は、いくらでもいる。

何もわざわざ、自分のような古文ばかりしている地味な存在に抱きつくとか、好意を示すなど、理解ができない。


「12年もの空白期間のジュリア」は、仕方ないかなと思う。

ハグとか、軽めのキスは、フランスでは挨拶のレベル。

だから、それに恋とか愛を、考えるべきではない、気にする必要もない。


「でも・・・真由美さんの意図が不明」

「わからない」


祐自身、真由美の動きを止められなかった罪悪感も生まれて来た。

「一歩遅れる」

「姉貴にも、よく叱られた」

「そのアホな癖が出た」

「上手にかわしていれば、こんな罪の意識もないのに」


でも、「何に対して、誰に対しての罪」も、実はよくわからない。

「何に対して」は、「不純異性うんぬん」・・・

「そこまでのことかな?」

「真由美さんも、ジョークかな、そう考えた方がいい」

「重く考えないほうがいいかな」

「あくまでも、真由美さんに、からかわれただけ」


「誰に対して」は、まっさきに「純子」の顔が浮かんだ。

しかし、すぐに否定した。

「純子さんが、僕を好きかどうか、わからない」


そして、現実を思った。


「今は、恋とか愛とか、そんな状態ではない」

「たくさんの大先生から重い仕事をもらっている」

「まだ、何も結果を出せていない」

「もう少し結果を出して、評価も安定しないと、恋も愛もない」


祐は、ようやく、我を取り戻した。

机に向かい、秋山先生の講演用原稿の第2次修整を始めることにした。

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