第203話祐は、春奈には引いてしまう

金曜日の昼、明日の平井先生宅での仕事を前にして、私、春奈は、祐君に連絡を取った。

「それで、第一巻の再点検は終わっているの?」(どんな答えであろうと、夜に、押し掛けようと思っていたけれど)


祐君は、はんなりとした声。

「はい、僕なりには」

「純子さんと真由美さんにも、点検してもらいました」(・・・邪魔な女どもが・・・)


「今夜行ってもいい?」(ダメと行っても行くけれど)


祐君が答えるのに間があった。

「あの・・・今夜は予定が、ごめんなさい」(何と!フラれてしまった!)


私は粘った。

「どこへ行くの?」(重たい女と思ったけれど、止まらなかった)

「デートなの?」(どうせ純子と真由美程度と思ったけれど)


祐君

「大学近くのライブバーに」


私は驚いた。

「はぁ?何で?」


突然、純子の声が聞こえて来た。

「はい、純子です」

「あの・・・祐君、真由美さんに引いているので」

(そんなに?でも、強く言い過ぎかな)

「祐君、そのライブに出ることになって」


私は、口あんぐり。

「祐君、音楽もやるの?それも人前で?」


純子は、朗らかな声。

「はい・・・聞き惚れます」

「もしかすると、祐君パパも来るかもですって」


私はブルッと身体が震えた。

「もしかして、あの・・・森田哲夫さん?」(この私も憧れる、すごい写真家、おまけに超イケメン!)


電話が、また祐君に変わった。

「あ、ごめんなさい、親からも、出ろとでした」

「だから、土曜に平井先生のお宅で」


私は、焦った。

「ねえ、聞きに行っていい?」(祐君の演奏なら聞きたいなあと)


祐君は、また、引いた。

「春奈さんのご期待に応えられるか、不安です」

「でも・・・やるだけのことは・・・」


私は、ドキッとした。

引かれているので、マジに辛いかも。

「祐君?私のこと、怖がっていない?」


祐君は、素直だった。

「はい・・・確かに怖いです」

「何をしても、怒られそう」


私、春奈は、「ごめんなさい」、それ以外の言葉が出て来ない。(つい、言い方も表情もきつくなる、私の悪い癖だ)


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