第146話平井恵子も古注について、祐と話をしていた・・・

私、風岡春奈は、祐君に完全に打ちのめされてしまった。

「古注」で、「いたぶってあげよう」と思っていたけれど、「逆論破」・・・

自分が情けないやら、「祐君が少し憎らしくなるし」でも「メチャ可愛いし」で、心がグチャグチャだ。


そんなことでモヤモヤしている時に、平井恵子先生から、電話がかかって来た。

しかも・・・祐君の話題だった。

「祐君の現代語訳を読み直したの、落ち着いてね」


「はい」(私は。祐君の現代語訳への落ち度指摘を期待してしまった・・・悔しかったから)


しかし、平井先生は明るい声。

「直せない・・・完璧で・・・すごく練ってあるのよ」(私も内心では、直せないと思っていたけれど・・・祐君の才能に嫉妬する)

平井先生の声は明るいまま。

「古注を別にしてあったけれど」


「はい・・・祐君には、祐君なりの考えがあるようで」(悔しいから、本当のことは言わない)


平井先生は、突然、饒舌になった。

「実はね、日曜日の夜にね、祐君とお話したの」

「それで、私も、祐君の考えが正解と思う」

「古注は、あくまでも、注釈に過ぎない」

「仮名序にもともと、ついていたものではない」

「だから、訳するとしたら、別に添付するべき」

「それと、漢詩最上説に立つ人が、宮廷貴族や女房への教育のために、注釈をつけたものとの考え・・・私もそう思う」

「だから、本来は、やまと歌の古今和歌集にはなじまない、うん、正解」

平井先生は、そこまで言って一息。

「祐君の論だけれど・・・いいなあと思って」

「その注釈をつけた人を藤原公任かなとか、言っていたよ」

※和歌・管弦・漢詩など全てにおいて完璧だったと言われている平安時代の貴族。

清少納言や紫式部とも交流があった。弓にも優れていて、従兄弟の藤原道長を負かしたというエピソードも残っている。


私は、悔しいけれど、白状した。(祐君が、私より先に平井先生と話していたことも悔しかった、論破されたことも含めて、二重の悔しさだ)

「先生・・・それ、祐君と話して・・・負けました」

「私、そこまで読み込んでなくて、勉強不足でした」


平井先生は、「私と祐君」の話には触れない。

「古文を、ただ単にありがたいもの、尊いものと考えたがっている学者が多くてね」

「何でも、漢文上位で、和文を下に置く人が昔から・・・今でも多い」

「でも、仮名序の心は、やまとの歌は、日本人の心が種」

「漢文とか、漢学者とか、中国人に評価されるための和歌でも序文でもないの」

「おそらく作者の貫之は、それを言いたかった」

「これも祐君が言っていたけれど、だからあえて、中国詩の六義(中国詩の六つの分類方法)にならって六つに和歌の詠み方を分類はしてみたけれど、同じようにはしなかった、避けた」

「やまと歌としての分類をあえて、貫いたの」

「祐君は、それでこそ、仮名序だとも、日本人としての、心意気かなともね」


再び、平井先生はそこまで言って一息。

「いいなあ・・・毎日でも、お話したい」

「祐君は正解、目から鱗だよ」

「でもね・・・」(平井先生の声が小さくなった)


私は気になった。

「でもね・・・とは?」


平井先生

「秋山先生も、祐君が好きなの」

「内弟子にしたいとも」

「お母様の彰子先生も、源氏の優秀な学者、いつかは賞をもらう人」

「秋山先生の弟子だからね、よく知る仲だもの」

「それと・・・祐君も、源氏も古今もって、大変かも」


私は、返事に困った。

確かに、祐君は大変過ぎると思った。

ますます、「気になる子」ランクは上がり続け、下から見上げるほどになっている。


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