第126話焦る真由美に神様のご配慮?

下北沢を三人で歩きながら、私、菊池真由美は焦り、そして考えていた。

焦りは、純子さんが平井先生の家で、「祐君と一緒に入学式、履修登録」と言ったことから始まった。


「となると、その後も祐君は、純子さんと、一緒に通学だよね」


そうなると、平井先生のところでのバイトがなければ、ますます純子さんのほうが、祐君に接する時間が増える(つまり、私には不利な時間が増える)ことになる。


純子さんに文句を言っても、意味がないとはわかっている。


「お隣さんで、同じ大学、同じ学部なの」

「協力し合うのは当然でしょ?」


それを言われたら


「はい、ごめんなさい」

と言うしかないのだから。


・・・としたら、どうするべきか?

私は、懸命に歩きながら、考えた。

何か、この私にも「チャンスはないか?」「ひらめきはないかなあ」と、下北沢の駅前の様子を見る。


「あ!」(この時に、神様はいるものだ、と感じた)


写真館が目に飛び込んで来たのである。(当然、祐君のお父さんの、森田哲夫さんに、連想が飛ぶ・・・実は美大生の私にとって、森田哲夫さんは、憧れ、神様のような人だ)


「祐君!」(神様のせいで、声が大きくなった)


「え?」(下を向いて歩いていた祐君がビクッとした、お人形みたいな動き、可愛い!)


「せっかく下北沢にいるの、喫茶店に入ってみたい」(博多出身・・・やはり地方出身者なので、東京、しかも若者文化の聖地、下北沢の喫茶店には、入ってみたい!)


祐君はキョトンとしているけれど、純子さんは、私の気持ちを察してくれた。

「真由美さん、そうよね、せっかく下北沢にいるの」

「男の子は知らないけれど、地方出身の女の子にとって、下北沢の喫茶店は、憧れなの」

「平井先生の家で神経を使ったし、気分転換も必要」

(しかも、私の、言いたいことを全部言ってくれた・・・侮りがたい・・・)

(私は、口が短い、ちょっと負けた、情けない)


祐君は、ようやく笑った。

「そんなものなの?」


純子さんも、笑顔。

「はい、そんなもの」


私は、可愛い喫茶店を目で探した。(そして、さすが下北沢、すぐに目に飛び込んで来た)

「ここでいい?」


祐君は「うん」純子さんも「うん」なので、即決、下北沢喫茶店デビューを果たした。

そして、ますますうれしいことがあった。(本当に神様はいる、と思った)

店に入ってすぐの書棚に、なんと「森田哲夫写真集」を発見したのだから。

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