第127話祐君の写真撮影の苦労話

私、純子は、要領よく祐君の隣の席をゲットした。(明太子女は、書棚で何かをしていたから)

少々ニンマリとしていると、明太子女も、ニマニマと何か本を持って来て、祐君の正面に座る。(なかなか、あざとい・・・こいつ)


そして、ぼんやり(おそらく平井先生の家での作業に疲れている)の祐君の前に、その「本」を置く。


明太子女

「祐君・・・これ」


祐君は、「あっ」と小声。(でも、あまり表情が変わらない)

「親父の写真集、これは日本の絶景編かな」


私も、有名写真家「森田哲夫さん」の名前はよく知っているし、母から「森田哲夫さんは、祐君のお父さん」も聞いている。(どうやら、祐君のお母さんとお父さんは、私の実家のお得意様とも)


明太子女は、まだニマニマ。

「すごい写真ばかりね、尊敬しています」


祐君は、微妙な顔、でもお礼を言う。

「ありがとうございます」

「この店にもあるなんて、偶然かな」


注文を取りに来た。

祐君はダージリン、私はウィンナコーヒー、明太子女はココアを頼んだ。


私は、祐君に聞いてみた。

「祐君も、お父さんと一緒に行くことはあるの?」(明太子女は興味深そうな顔で、身を乗り出した)


祐君は、あっさり。

「あるよ、お手伝いで、荷物を持つ」

「夏休み、春休みが多い」

「冬は行かない」


明太子女

「どうして冬は行かないの?」


祐君は下を向く。

「風邪を引きやすい体質なので、姉貴が猛烈に反対した」

「行きたかったけれど、母さんもダメって」(うん・・・私でも反対する、3月末の東京で風邪を引く祐君だよ)


私は、話題を変えた。

「撮影って大変でしょうね」

「苦労したこともあるの?」


明太子女は真面目顔になった。

「私も美大で写真も撮るの、古今和歌集でも、気合い入れないと、参考にします」


祐君は、頷いて話し出した。

「見知らぬ町の、初めて降りた駅を歩くと、新鮮な気持ちと迷子のような不安に包まれるよ」

「それは、駅の改札を出て、町を歩き始めても、しばらくは変わらない」

「少し落ち着くのは、その町で喫茶でも料理屋でもいい、椅子に座った時かな」


この時点で。私は祐君の話に引き込まれた。

明太子女も、引き込まれたらしい。

じっと祐君を見ている。


祐君は続けた。

「ただし、それも町によって格差がある」

「都会のような、よそ者には無関心のところ、田舎のような、よそ者をジロジロと見るところではね」

「ジロジロ見られると、正直、嫌だった・・・親父は慣れていたけれど」

「でも、同じ都会と言っても京都は別、見ていないふりをして、しっかりと観察をしているかな」

「風景写真は、いつも同じ場所から撮るわけではなく、違う田舎町で撮ることもある」

「そして、写真には最適な場所でも、よそ者には酷く冷たい町や人もある」

「カメラを持っていて、歓迎してくれる町もあれば、役所の依頼と説明しても理解されなくて、不審者扱いで警察まで呼ぶ町もある」

「後で事情がわかっても、田舎の人は、謝らない場合が多い」

「特に酷い対応を受けると、満足できる写真が撮れたとしても、心に傷がつく」


珍しい、祐君の長い話だ。

祐君の別の顔を見たような気がする。(その苦労を、一緒にしたいな、とも思った)

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