第105話春奈の思い 祐はやはり疲れていた

私、風岡春奈は、祐君のチャレンジ発言の後、あっさりと祐君の部屋を後にした。(これも、平井先生と打ち合わせ通り、しつこく残ってはいけないとのこと)(ただ、名残惜しかったことは事実、ドアを開けるのが辛かった)

でも、祐君には、平井先生の本を三冊読む時間も必要。

紀貫之の「仮名序」を訳す時間も必要と思った。(メチャ、神経を使う重労働だから)

「あまり、邪魔できない、読んだり、考え事をしたり、書いたりするのだから」


「繊細な子」だけとは、思わなかった。

チャレンジ精神も、しっかりある子と思った。

でも「恋人」にはしたくないと思った。

おそらく、実はモテる子と、感じた。

弱そうに見えて、実は芯が強い、頼れる子だ。

また、下手な失恋をした場合に、仕事を共にする仲間としては、実に危険。

それよりも「弟」感覚で、可愛がり続けたいと思った。


「ああ・・・生きる希望が増えた」

春奈は、春のふんわりとした青空に笑いかけた。

「このまま祐君と、先生と一緒に」

将来は、院生、そして大学の講師、教授まで目指している。

その間、何か本でも出せたらいいな、程度。

書くのは、日本の古文関係になる。

それを考えれば、平井先生や、将来有望な祐と、深く長い関係を持てる起点になる、目前にせまる仕事が楽しくてたまらない。


「いつかは、祐君に手料理でも」

そんな思いを抱きながら、春奈は調布の自宅に帰って行った。



さて、「壁に耳を当てて」とまではいかないけれど、祐の部屋が気になって仕方がなかった純子と真由美は、窓から風岡春奈の姿が見えなくなった途端、行動を起こした。

それぞれの部屋を出るのも、同時だった。

純子

「祐君、大丈夫かな」

真由美

「とにかく、顔色を見ましょう」


純子が祐の部屋ドアをノックする。

「祐君?」

真由美は揺れる胸を抑えている。


すぐにドアが開いた。

「何か?」

祐は、やはり疲れたような顔。


純子

「お散歩しない?」

真由美

「煮詰まった顔しているよ、気分転換しようよ」


祐は、少し考え、空を見た。

「そうかな」

「ケーキが食べたくなった」


純子がプッと吹いた。

「じゃあ、行こう!」

真由美もニコニコ。

「気晴らししようよ」


祐は、恥ずかしそうな顔。

そのまま、三人の散歩がはじまった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る