第102話平井恵子②

「あのね、祐君」

平井恵子は、ふんわりとした語り口。


「はい」

その語り口に、祐の緊張も、少々やわらぐ。


平井恵子は、ふんわりとした語り口ながらも、話は途切れない。

「お父さんとは、文化庁の審議会で同じメンバーなの」

「この間、祐君の話にもなりましたよ」

「よろしくご指導をとおっしゃって・・・」

「もちろん、私は、お任せくださいと」


押されるばかりの祐は、ようやく発言の機会を与えられた。

「いや・・・先生・・・ありがたい話ではありますが」

「ものごとを整理して」

「まず、何をどうするか、段取りをつけないと」

「親との話はともかく、作業をするのは親ではないので」


クスクス笑っていた風岡春奈が口を開いた。

「先生、祐君の言うとおりかも」

「祐君、混乱しています」


平井恵子も、少し笑う。

「祐君、可愛い顔しているから、ついついね」

「見飽きないわね、この子」


祐は、目を閉じて話し出す。

「古今と言えば、貫之の仮名序も」

「日本文学史、というか文章史に残る名文と思いますが」

「ただ、かなりな長文、統一感を持って現代語訳するには、かなりな神経と校正も必要」

「紀淑望の真名序もしかり、相当なエネルギーを要します」


平井恵子は、ようやく真顔になった。

「それだから、文のセンスが高い、と思う祐君に」

「これは、秋山先生も、私も認めました」

「祐君の素晴らしいブログを読んで、確信しています」


風岡春奈も真面目な顔。

「祐君、あのブログ、無料でしょ?」

「もったいない、本にすれば買う人も多いよ」

「それと、ブログにつけた写真は祐君の撮影?」


祐は、また押された。

「ストレス解消で、アップしていただけです」

「写真は、父さんの真似もあるし」


祐が、ためらっていると、平井恵子は、笑顔で、とんでもないことを言い始めた。

「京都の宿を予約します」

「なじみのホテルも旅館もあります」

「京都を歩きながら、写真を撮りながらも、本格的な話も、いいかなと」


風岡春奈は目が輝く。

祐は、再び、困惑状態に陥っている。




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