第91話祐君の部屋で、玉鬘談義(3)

祐君は、真面目顔を変えない。(私、吉村純子は、この顔も好きだ、キリッとした感じ)

「罪深い光源氏は、夕顔の死、取り返しのつかないことを、隠そうと決意した」

「自分との逢瀬の後のことであって、夕顔の家族にも、もちろん世間に知られたくない、」

「玉鬘の実の親、ライバルの頭中将には、絶対に知られたくない、だから知らせない」

「現場にい合わせた、乳母子の右近を口止め目的に、手元に置くなどして、とにかく、自己保身に走ります」


菊池さんは、ため息。(この際だから、明太子女から、菊池さんにしてあげる)

「祐君の言う通り、光源氏の罪深さ、自分勝手さをベースに置かない限り、解釈が薄くなりますね」(・・・まともなことを言うので、少し焦る)


「太宰少弐は、大宰府で亡くなるよね、任期が終わって上京しようとしたけれど」

「だけど、都が遠くて、都でも頼りになる後ろ立てがなくて、出発をためらっている間に重病になって、そのまま客死?」(祐君の目がキラッとしたから、そこで止めた)


祐君

「太宰少弐の悲劇であり、玉鬘の悲劇でもあります」

「本当の父の内大臣も、母を殺したようなものの、光源氏も」

「とにかく、本当の父が、もともと隠していたし、光源氏も気にしてはいたけれど」

「二人とも、正確な所在を掴んでいなかった」

「太宰少弐の孫、と言うことで、隠して育てたこと、そうするしかなかったけれど、それも悲劇かな」

「大宰府から都に連絡するにも、しっかりとした伝手がなくて」

「乳母の、玉鬘を父の内大臣に再会させたい、という念願だけが支えだったのかな」


菊池さん

「玉鬘は美しく育って、数々の求婚は、身体に障害がある、なんて嘘まで言って、断り続け」

(菊池さんが、ちらっと私を見たから、続けた)

「でも、美しさは隠しきれなく、20歳の時に、肥後のゲンに言い寄られたと」

(菊池さんが、私を見て、頷いた・・・気が合って来た?)


祐君の顔が、少し和らいだ。

「そこで、無理やりに、肥後のゲンから逃げる」

「都から一緒だった女房たちも、現地に残る人もいて、離れ離れに」

しかし、また祐君の目がキラッと光った。

「この、急な出発、女房たち、玉鬘のお世話をしてくれる人と離れ離れも、重要なポイントです」


菊池さんと私は、同時に祐君に質問。

「重要なポイントって?」(・・・ここでも、気が合ってしまった)


祐君の答えは厳しいもの。

「要するに、帰還先の都に伝手がほとんどない、その伝手を探す段取りをする女房も人が減ってしまった」

「そんな、お金のあても、人のあてもない、ただ、逃げるだけの帰京だったのです」


菊池さん

「マジ・・・怖い出発だね」

「確かに、逃げるだけだね、後は神頼みか・・・」


祐君は、うん、と頷いている。

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