第90話祐君の部屋で、玉鬘談義(2)

祐君は、大きなノートを珈琲にぶつからないように、ゆっくり丁寧に広げた。


私、菊池真由美はキョトン状態だったけれど、「その丁寧さと、指の美しさ」に、「胸キュン」状態(ヨダレは我慢だ)。


祐君は、ちょっと恥ずかしそうに、その理由を説明する。

「高校生の時、部活の仲間と図書館でこんなことをしたことがあったので」

「本当は、ホワイトボードが便利」


意味がわかった。

勝手にゴチャゴチャしゃべっていると、つい、堂々巡りになるってことか。(祐君は賢い!私も祐君と同じ高校に通いたかった)


純子さんが、発言。

「で、玉鬘だよね、まあ、シンデレラのような」

「夕顔の娘で、筑紫に、そこで育って」

「肥後のゲンの求婚から逃げて、都に戻って、石清水さんに行って、その次に長谷寺、そして光源氏の六条院に、宮中に入る予定が、髭黒大将に」(まあ、私と同じようなことを言う)


祐君は、大きなノートに、サラサラと、要点を書いていく(字も、上手だ、かっこいい感じ)


書き終えた祐君

「夕顔については、軽く整理しておいたほうがいいかな」


純子さんは意味不明感を示す。

「う・・・うーん・・・」

私も、似たようなもの。

「それほど、関係あるかな」


祐君は、真面目顔。

「全くない・・・とは言えない、と思うんです」

「夕顔の娘、ということ、大切かなと」


純子さん

「頭の中将の娘でもあるよね」

「頭の中将の娘を産んだけれど、正妻が怖い人で、身を隠したと」

(結局、私と純子さんのレベルは、同じようなもの)


祐君は、純子さんと私の言ったことを、サッとノートにメモして、発言。

「僕が考える、問題点の一つに関係することがあって」


純子さん

「うん?なあに?」

「問題点?」

(二人とも、気づいていないのだ)


祐君

「要するに、母夕顔と光源氏との問題ある逢瀬が、母の死を招く破滅的な結末」

「その設定の裏に、三輪山説話がある、光源氏が顔を隠して、夜ごとに夕顔のもとに訪れたとか」

「宇多天皇と京極御息所が河原院で密会し、左大臣源融の霊に襲われた、の話を下敷きに、とかの説はともかく」

「その悲劇的な結末により、4歳で、筑紫に逃れるしかなかった、ということ」

「あてにならない男親、突然死んでしまった母、そして都の生活を望むべくもない、その中で育つ彼女の気持ちもあるし」

「・・・でも、源氏が逢瀬に来なかったら、そんな苦労を味わっただろうか」


祐君の示したテーマは、純子さんにも、私にも重かった。


純子さん

「光源氏は、自由な恋愛を求めて、その恋愛の中では苦しむけれど・・・」

「実生活に、何ら支障が発生したわけではない」


「玉鬘にとっては、母も結果的に死んでしまい(ある意味、光源氏に殺された?)、京での生活を破壊され、筑紫の田舎暮らし、しかも乳母夫妻に養われる・・・か・・・」


祐君は、真面目顔のまま。

「光源氏の罪深さを示す話でもある、と思うんです」

「あるいは、身分差別世界の罪深さも、厳然とある」


純子さんと私は、顔を見合わせた。


純子さん

「面白い、腰を据えて?」

「はい、話が、深く」


祐君は、少し憂いを含んだ顔になった。

「結局、玉鬘と、髭黒が、あんなことになる原因が、コトの発端から、全てつながっているような・・・」

「その意味で、作者紫式部の意図が・・・」


純子さんと、私は、思わず身を乗り出した。

祐君の次の言葉が、待ちきれない。

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