1月23日
《ハナー、おタケー、起きるのじゃ、家が出来たそうじゃぞ》
「うむ、起きれるモノだな。ハナ」
「おー、おはよ」
「先ずは風呂だ、飯を食ってからソッチに行きたいんだがな」
《うむ、伝えておくぞぃ》
「ほれ、
「うい」
俺らは代謝が凄い。
ある意味この時期に体が再構成されているんだとも思う、それはハナも。
しかもハナの場合は満たされるまでの時期が長い。
0での膜の影響も、ストレスも有っての回復の遅さだとは思うが。
そうだな、検証が必要だろう。
「ショナ君、アレが我儘を言う感じは有るんだろうか」
「いえ、全く。ストレスは魔素の回復も妨げると言われてるんですが、全然、全く要望を言ってくれ無いんです」
「俺が
「いえ、ただ何かしら有ったのではと」
ハナには、ハナにだけ精神科医が付いたんだ。
ただ、アレも結構な色男だったし、俺としてはショナと恋仲になって欲しいんだが。
「カウンセラーは付かないのか?」
「そうですね、要求が有るか、国や外部からの要請が無いと」
「なら俺が要請する。そして俺も見て貰う、大罪と言われるモノ達が要るんだろう。俺ら召喚者は諸刃の剣、俺は居なくなるにしても、ハナにはココの人間との調和を大事にして貰いたい」
「はい、ですが桜木さんには」
「俺から言う、ココを知る良い機会だと」
「分かりました、何か特定の学派の希望は有りますか?」
「ユング、フロイト以外。根掘り葉掘りで無い者が良い、先ずは候補者を教えて欲しい」
「はい、分かりました」
「終わったー」
「おう、交代だ。ちゃんと乾かして貰うんだぞ」
「うい」
さっさと済ませ朝食会場に。
先ずはハナに合わせ、フォーと中華粥。
続いてエッグベネディクト、ハッシュポテト、薄いチーズトーストにベーコンやソーセージとオムレツを添えて。
合間にフレンチトーストを食べ出した辺りで、サラダに。
ハナも今度はコチラに合わせてサラダに、まだ食えそうなのでステーキはどうかと行かせた。
うん、飯が上手いんだココは。
口から吸収が1番だな。
ハナはまだまだいけるらしく、またオムレツへ。
部屋に戻り、今度は全員で裏口から魔王城まで転移。
「魔王はどうするんだ」
「お買い物ですかねぇ」
「アレの野菜不足が気になる、野菜ジュースを作らせたい。野菜と果物を頼む」
「はい」
迎えに来た白いカラスの背にはショナと共に乗り、カールラの背にはハナ、そうしてアヴァロンへと向かった。
「お邪魔しまーす」
「邪魔する」
《どうぞハナ、タケミツ、いらっしゃいませ》
「ちょっと待ってて」
「お手伝いしますが」
「いや、自分で降ります」
《ハナ、その変な降り方はもう止めんか?》
「運動音痴だし、ワシ重いし」
「
「バレたか」
「モロバレだ」
ズルズルと這う様に降り、もふもふ、ツルツルを全身で。
どうしてこう、ハナはチャンスをスルーするんだろうか。
「なんか、すっかり片付いて、木をごめんよドリアード」
《良い良い、我らの不手際が原因じゃしの、気にするでない》
《ココは森に閉ざされて居ましたし、返って道が出来て良かったのかも知れませんわね》
《じゃの!》
《ではこのままお家まで行きましょうね、泉を過ぎた先です》
《ごー!》
ドリアードを先頭に深い森を進むと、眩しく開けた空間に出た。
《お!おでましだ!》
《どうぞどうぞ!》
《おいミーシャ嬢!ちゃんと案内するんだぞ!》
家の前にはドワーフ的風貌の男性達が大勢屯していた、年齢もサイズも容姿もバラバラ。
ただ、筋骨隆々。
ふむ、多少は鍛えんとな。
《まぁまぁ、落ち着くんじゃ、早速新人も居るんじゃ、ゆっくり観察させい》
「李 武光だ、宜しく!」
「どうも、桜木花子です、今回はどうもありがとうございます」
《お、兄ちゃんか》
《良い筋肉だな》
《良いから良いから、先ずは中に入ってくれ》
ハナの理想の山小屋なのだろう、2階建てのロッジ。
石の煙突にウッドデッキ、大きな窓。
真新しい家の匂い、木の良い匂いだ。
「あ、タケちゃんも」
「いや、俺はもう少し考えさせて欲しい。それに、ココに集まる方が楽かも知れんしな」
「なら部屋はどうする?」
「暫く泉かも知れん、追々だ。ほら、見てこい」
「あーい」
「お上手ですね」
「実質既婚者なんでな、心得位は有るさ。で、君は経験は」
「いえ、すみません」
「ウブを恥じる事は無い、アレは潔癖そうだから却って丁度良いだろう」
「え、あ、ちょ」
「うん、記念だ記念」
「ちょっ、何の記念ですか」
「君の赤面記念だ、記憶も記録も大事に取っておく主義なんでな」
「なんでそんな」
「俺は帰るからだ、それに君は些か人間味に欠けるんでな、人間らしい部分をアイツに知って貰いたい。ウチの
俺の分まで、これから想像も出来無い過酷な事が起こるんだからな。
ハナのオアシスで軸で、大事な人間。
「はぁ、はい」
「うむ、結構結構」
「凄いわ、タケちゃん、ヤバいわ」
「そうだな、完璧なロッジだ」
一通り見終わり玄関から外を見ると、家の周りに棟梁達が集まっていた。
子供の様に褒められるのを待っているのが微笑ましい。
神々も精霊も純粋なのだよな。
《どうでしたかな?》
「完璧。皆さん、ありがとうございます」
《ははは!やったぞ!完璧だとよ!》
《ミーシャ嬢とほぼ同じ身長って聞いたからな》
《おう、お陰でパーフェクトだ》
『お、ハナ!来ていたのか、どうだ?』
「おっすオベロン、完璧に素敵」
『では、礼は酒とツマミで良いぞ!』
「うっす、鮭の燻製やジャーキーと…ショナ君」
「はい、どうぞ」
《酒だー!》
《ツマミだー!》
《うぉおおおおおおお!》
「ティターニアにはコンポートを」
《有り難う御座います、アチラでお茶にしましょう》
円滑に神々と交流出来るのも、ハナの良い所。
問題は小野坂だ。
クソ、眠気が。
「美味しい」
《うふ、ありがとうございます。一息ついたら魔法の練習をしましょうか?》
「やる!やります」
《はい、では》
「すまんが、限界が来たらしい」
《あ、では泉へどうぞ》
「おうおう、おやすみ
女召喚者が魔法の練習を始めた。
うん、コイツ適性有るんだよな、色んな意味で。
「おう、あぁ、映画館か」
『知ってるのか』
「あぁ、ハナの記憶が観れる映画館だ」
何それ、あぁ、この雌が俺の眷属候補か?
『だがココに、ニャルラトホテプは居ない筈だろうに』
「あぁ、かなり先にはなるが、ハナにその嫌疑が掛けられた」
『ふーん、って言うかお前さん、慎重過ぎ無い?』
「例えシミュレーションでも、人死は避けたい。まして何を変えればどう変わるか、ただの人間の俺には区別が付かないんだ」
『脳筋馬鹿かと思ったけど、ちゃんと考えてるんだ。偉いねぇ』
「アンタまさか、ロキか?」
『まさかぁ、あんな北欧の化け物と一緒にしないでよ。俺はねぇ』
消えちゃった、まだダメか。
まぁ、魔法は綺麗だし、俺の時間は無限だし。
アレがロキじゃ無いなら、本当にただの管理者なんだろうか。
それか、やり直せる世界の神か。
『おう、起きたか』
「あぁ、オベロン、だったか」
『おう、随分と鍛えてるな』
「あぁ、格闘家で、今は教師を目指してる」
『身体に異常は無さそそうなのに、何で真逆に向かうんだ』
「寿命、まして身体は消耗品だろう」
『あぁ、すまんな、不老不死なもんで』
「それと、子供の為だ、俺のだけじゃ無くな」
『そうか、お前は思ったより頭が良さそうだ』
「良く無い、全然だ」
頭が良かったら、俺は役目を勘違いしなかった。
小野坂の事もだ、そしてハナの事も。
『何だ、もう悩みが有るのか』
「あぁ、魔道具や魔法のな。俺には殆ど適性が無いんだろう」
『そうだ、身体強化程度だ』
「脳味噌は、強化出来るんだろうか」
『止めとけ止めとけ、禄な事にならないぞ。ましてやお前の良さが台無しになるんだ』
「俺の良さとは、何なんだろうか」
『真面目で真っ直ぐで、人を慮れる。脳味噌の強化はな、その良さを対価にするんだ。だがまぁ、大概は暴走し』
「戻れなくなる」
『色んな意味でな』
「そうか、マーリンには会えないだろうか。世界の命運が掛かってる」
『俺は居場所を知らない。が、眠る時に強く願う事だな』
「ありがとう」
『よし、俺は酒を貰いに来たんだったわ。坊主、アレはどうなってるんだ?』
「ティターニアさんが桜木さんを抱き締めて…それからは分かりません」
『おい妖精達、どうなってる…ほうほう、ふんふん、そうか、そうか』
「何が?具合でも悪いんでしょうか」
『大丈夫だ、ほっといてやれショナ坊、酒をおくれ』
「あ、はい、どうぞ」
『うむ、また持って来させろ、奴等も大層気に入っていた』
「はい、伝えておきます…あの、武光さん、本当に大丈夫なんでしょうか」
「きっと、嬉し泣きでもしているんだろう」
「嬉し泣きですか?」
「あぁ、無力な自分が力を持っていると知れて、安堵と喜びの涙でも流しているんだろう。人相学的にな、アレは意外と繊細なのは、何となく気付いているだろう」
「ちょっと、良く分からなくなる時が有るんですよ。雑だったり、面倒くさがったり、マメだったり」
「自分に頓着が無いから自身にも雑なんだろう、だが他人は別だ。良くも悪くも他人の方が大事で、多分、家庭環境だろうな」
「どうしたら、仰って頂けると思いますか?」
「先ずは自分から語るべきだろう。それと、常識の違う世界の人間なんだ、そこで可哀想だ何だと評され兼ねない環境だったなら、言うのは躊躇って当然。同情は毒にも薬にもなるからな」
「ありがとうございます。今後もご指導を頂けませんか?」
「君は君のままで、いや。君にはハナが残った後の世界について考えて欲しい、そのフォローになにをすべきか。常識を覚え直させるのは、容易い事では無いだろうからな」
「はい」
「タケちゃん、起きたのね」
「おう、
「あぁ、うん、ちょっと寝るね」
「あぁ、おやすみ
「直ぐに寝ましたね」
《ショナ坊、こやつの…ハナの生い立ちは聞いておるか?》
「いえ、お話し頂けるまでは聞くなと推奨されてるので、まだ何も」
《そうか、そうじゃったか》
「その事なんだがな、人相学者を探して貰いたい。占い師もだ、未来を占うのでは無く、過去とコイツ自身を見て貰いたいんだ」
《ほう、人相学とは》
「容姿から占うんだそうですけど、中つ国が源流だそうですね」
「そうか、ココでもそうなら。ショナ君、今日中に集めておく様に言っておいてくれ」
「はい」
「それと、ネイハムにも聞いておきましょう」
「ミーシャ、そのネイハムとは?」
「精神科医です、エルフの。召喚者様や転生者様の研究をしてます、下界で」
「ショナ君、追加だ。そのネイハムの書類も頼む」
「はい」
《あ、歯軋りを…【良い子、良い子、良い夢を、安らかに心地好く、ゆっくりおやすみ、愛しい子】》
あぁ、俺も、眠くなってきた。
《ハナや、起きてたもう、虚栄心から魔王に連絡があった様じゃぞ》
「ん、おはよう…今何時?」
「ベガスはランチタイムですよ、戻りますか?」
「うん。タケちゃん、ごはん食べに行こう」
「ん、あ、んんー」
点滴を一時的に外して貰い、ホテルの裏口から入る。
魔王とミーシャは部屋へ向かわせ、自分達はそのまま食堂へ。
道すがら出会ったダンディ紳士の案内で、すんなり虚栄心と会う事が出来た。
「待ってたわよー!」
「おまたー」
「あらイケメン」
「李 武光だ、宜しく頼む」
「どうもご丁寧に、私は虚栄心よ。さ、お腹が空いてるのよね、服は部屋に運ばせるから、先ずは一緒に食べましょ」
挨拶を簡潔に済ませ、早速各自の好きな物を好きなだけ運び、食べる。
タケちゃんはフォーに始まり、中華粥、腸扮を往復。
本場的にも旨いらしい。
自分はサラダとステーキ、シーフードとカットフルーツ等々、シンプルな料理ばかりを食べてみた。
キラキラ光るのは魔素、魔素が多い物はシンプルな料理ばかり。
つまりシンプルな物を食べ続ければ、お腹がポッコリしないんじゃ無いかと。
だがムダだった、圧倒的に足りてないのだ、魔力が。
お腹の皮膚が張って、顎が疲れて汗だくになるから食べるのを止めるだけ。
中つ国以降は特に、コレはちょっと、ストレスだ。
「ふむ、野菜ジュースに移行すべきかも知れんなハナは。正直まだ、いくらでも食えるだろう」
「なんでバレた」
「まだ食い物を見てるからだ。顎が疲れたか?」
「うん、顎も弱いねん」
「そうかそうか、ならデザートでも食べて少し休憩したら良い」
「カロリーと魔素は≠ぞ?」
「俺はな、子女はプニプニすべきだと思うが。そうだな、もし気になるなら一緒に筋トレをしよう」
「えー、筋トレて」
「先ずは柔軟からだ、姿勢の矯正にもなるぞ」
「そうね、しなさい」
凄いなコミュモン、マジで理想のお兄ちゃんやん。
ハナがデザートを食べている間に、ショナ君と柔軟や筋トレメニューの相談。
そして野菜ジュースの構成を済ませ、部屋に戻ると2着の洋服が掛けられていた。
燕尾服とシンプルなメイド服、下着もだ。
そうか、紫苑用にハナに作らせておいてやるべきか。
「わお」
「ベースの服は数種類、カタログを入れておいたわ。で、ココからダウンロードして頂戴。服を変えたい時は、アナタ達がイメージするだけよ」
『《はい》』
2人が成人の姿になり、試着。
チビに変身しても良く似合っている、カールラは青と白のドレス、クーロンは水色のスーツ。
「このままでも良い気がする、凄いね、ありがとう虚栄心」
『《ありがとうございます》』
「うふふ、もっと褒めてくれて良いのよ」
「完璧、よっ!凄腕!超一流!美の職人!センスの塊!」
パチパチパチパチ。
全員で拍手喝采。
うん、改めて見ると凄いな。
「ふふふ、ところで貴女は?」
「ミーシャ。桜木様の従者」
「まあまあ、可愛い子、宜しくね。それじゃ私は戻るわ、魔王!他のも出来上がったら連絡するわ、じゃあね!」
「待った、少し話しがしたい」
「あん、何かしら?」
「2人だけ、いや、ミーシャも同席を頼む」
「はい」
「なら。ハナ、腹ごなしにお散歩に行ってきなさいな」
「そうだな、そうだ。スーパーに面白いモノがないか、見て来てくれないか?」
「スーパー、行く」
「すまんな、頼む」
「ういー」
「で?何しら?」
「ハナの服を最優先で頼みたいんだが。ミーシャ、性転換の魔法は知ってるか?」
「変化でしょうか」
「違う、狼人間の様に根本的に変化する魔法だ。魔道具でも良い」
「存在してるのは知ってますが、私には不可能です」
「それ、私に何か」
「ハナを男にさせる、魔道具でだ。アイツの安全の為に、そうさせたい」
「あぁ、それで男女兼用を作らせたいのね」
「着替えれば良いだけの話なんだがな、そうもいかない緊急事態用にだ」
「なら、男の姿の採寸も必要だわ」
「あぁ、そうか」
「取り敢えずはアンタのも採寸するけど」
「いや、俺は」
「アンタは使わないの?その魔法も魔道具も」
確かに、俺が女に成れるなら、第2地球にも行ける可能性が有る。
成程。
「そうだな、頼む」
「任せて、じゃあはい、脱いで頂戴」
「召喚者様は、どれもこんな突飛なんでしょうか」
「だな」
「そうね、ふふっ」
採寸を終え、ハナの居る場所まで向かう。
ドリアードはマジで便利だが、やはり魔道具が必要だろう。
「お、タケちゃん、どうやってココが」
《我じゃ》
《じゃの!》
「便利だな、ありがとうドリアードズ。ショナ君、向こうから連絡は有ったか?」
「いえ、まだですね」
「そうか、少し早いが行くとしよう」
「おー」
何処でも、ココでも上の怠慢は有る。
シェリーへの伝達不足、女従者に無色国家。
どうして、俺は気付けなかったんだろうか。
優しいタケちゃんから一転して、静かに激怒するタケちゃんの姿を垣間見た。
王宮に着くなり書類を取り上げ、ぶち撒けた。
「言った筈だが?」
『はい、ですが』
女性従者の事でキレた。
残る気は万が一にも無い、例え子種を残すとしても、その権利や相手を選ぶのは残るワシに任せると。
なんで、いや、残るからだろうけども。
「なんでワシ」
「
「いや、人生経験浅いし」
「お前が年を取っても、精子は年を取らんだろう。お前が良いと思えるその時が来たらで良い。な?廃棄してくれても構わない、頼む」
「保留で」
「分かった、また話し合おう。で、これが俺の最大の譲歩だ、ココでもう既に見切りを付け、他国に行っても良いんだぞ?こんな、人の言う事を1つも聞けない国に尽くす義理や価値が、お前らに有ると本気で思っているのか?」
うん、ボッコボコやんな。
怒らせたら怖い。
《大変、申し訳御座いませんでした》
真っ先に土下座した人、偉いぞ。
そしてそれに倣って皆も、この場合は最初に謝った人間の方が良く見える。
タケちゃんもそう思ったのかどうなのか、真っ先に謝った人間の手を取り、話を始めた。
「で、人相学者はどうなった?」
《最高峰かは別で良ければ、既に何人かは集めてあります》
「そうか、ハナ。見て貰うと良い、お前の指針や何かが知れるかも知れない」
「うい」
タケちゃんは既に役割を理解出来ているんだろうか。
ワシ、ポンコツやんな。
ドリアードにハナの人相占いの結果を聞き出しながら、無色国家に関わった人間の書類を探し出す。
コイツらか、コイツらのせいで争う事に。
「おい、無色国家の説明を頼む。それからココの事もだ」
ワシ、お人好しらしい。
そして家族や過去の話に。
微妙な相槌を打ち、微妙な空気に。
気まずいな。
「桜木さん、もし良ければカウンセラーからココの実態を聞いてみませんか?それからまた、話すかどうか考えてみて下さい」
「すまん。大した事は無いんだ、暴力とかも無いんだけど。考えさせて欲しい」
「いえいえ、では戻りましょうか」
占い師の方々とは別れ、タケちゃんの居る部屋に戻る。
ショナがタケちゃんに呼ばれた。
チャンス。
インテリっぽい人に声を掛ける、科学や理系っぽい感じ。
薬品の良い匂いの人。
「どうも、お伺いしても宜しいですか?」
「はい桜木様、何なりと」
「ホムンクルスとかクローンとかって作って無いの?」
「我が国には無いです、無理ですね」
「我が国、には?」
「コレ以上の事は言えません」
「そこを何とか、さきっちょだけ」
「…何を為さるおつもりですか?」
「世界平和」
「それは分かるのですが…」
「技術的に不可能なら諦める」
「その、現在は禁止されていまして…」
「何でも良いから教えて、どうしたら良い?」
「…一度お戻りになって聞かれるのが宜しいかと…」
「まじか…」
「本当に平和のお役に立つんですよね?」
「勿論」
「では、こちらからも話はしておきますが、期待なさらないで下さい」
「ありがとう、宜しく」
「桜木さん、もう少し掛かるそうで、好きに待っててくれと」
「おう、さよか」
待ち時間はひたすらタブレット学習。
医神の情報を探す、治すのでは無く根本的に変えてくれる医神、体の期限が迫ってる。
《お待たせしました、再剪定後の名簿です》
「うむ、コレで良いんだよ。コッチのは非常時用にハナに付ける、鍛錬させておけ」
《はい、畏まりました》
「それとコイツらの調査だ、徹底的に調べさせろ。ただ、勘付かれるな、コレは世界の危機に関わる」
《はい、承りました》
炙り出せたとしても、ココの国の人間だけ。
全世界的に散らばっているテロリストを、俺はどう対処すべきなんだろうか。
「
「あぁ、無い頭を使うと疲れるな」
「知恵熱出さんでくれよ」
「そうだな。よし、出さん様に泳ぎにでも行くか」
「えー」
「さ、戻るぞ」
タケちゃんはホテルに戻ると、本当に泳ぎに行ってしまった。
ミーシャも、魔王まで。
「桜木さん、泳ぎに行きませんか?」
「今度ね、卵有るし。交代っていつするの?」
「明日がリミットです」
「ショナとは今日で最後か…」
「そんな、また戻って来ますよ」
「仕事好きなのは良いけど、プライベートは大切にしないと良くないよ」
「頑張ってはみますが…家族や友人にはこの旅の事は言えませんし、正直困るんですよね、休みを頂いても」
「頑張るて、仕事人間、人生をもっと豊かにだね」
「今が一番豊かですよ、従者が僕の人生ですから、お気になさらず」
「何がそんなに、従者に魅力が有るのよ」
「長い話ですよ」
「聞こう」
《ふふ、語らい始めたぞぃ》
「うん、それで良い」
ハナの大事な思い出。
コレの邪魔は出来ん。
「あの、武光君は、どの様な役目が有ると考えてらっしゃるんですかね?」
「魔王、アンタとちゃんと話し合った事が無かったな」
「そうですね」
前でもだ。
鍛錬が楽しくてハナに全て任せていた、それもコレもハナが弱いと侮っていたから。
今なら分かる、圧倒的に俺より強い。
例え魔道具の力だったとしても、それを最大限に引き出せる意志と力が有る。
「俺は、己の肉体だけで全てどうにかなると思っていた。まして職業だしな、でもココでは肉体の強さは、そこまで関係無いんだよな」
《まぁ、そうじゃな》
「一時的とは言え、身体強化も有りますしね」
「なぁ、魔法とは何だと思う」
「力、ですかね」
《思いの具現化じゃな》
「力で、思いの具現化か。俺にはそんなに想像力も創造力も無い、だからそこまで魔法の適性が無いんだと思う」
《どうして、そう思うんじゃ》
「ハナには想像力も創造力も有ると思っている、あの森を作ったのはハナなのだろう」
《じゃの》
「だから、アイツには無限の可能性が有る、ココに居るべき、必要な存在なんだと思う」
《お主、先読みの》
「勘だ。だから、もっと可能性を見せてやりたい、何でも出来ると思える程に。もっと穏やかに能力を伸ばして欲しい、そう思っているんだが」
「そうですね、まだまだピリピリしてますし」
「心を開いてくれませんし」
《じゃの》
「少しずつ、俺も努力する。助力を頼めるだろうか」
「はい、喜んで」
「勿論です」
《ふむ、まだ掛かりそうじゃし、泳いでこい》
「おう」
夕食は皆で、魔王はタケちゃんの買い出しを手伝った後、子供達に会いに行くらしい。
ミーシャはキュウリのサンドイッチが気に入ったらしく、ひたすらモグモグして可愛い。
タケちゃんはタコスのスパイシーさが気に入って爆食いしていた。
ショナはバランス良く食べてエライ、ムニエルをお代わりしていた。
自分はエビ餃子、ムニエル、ケバブ、パエリア。
「タコスかケバブなら、僅差でケバブだわ」
「俺はタコスだな」
「本場で食べたい、ケバブ」
「エビかケバブか」
「ケバブにエビ入れて食う」
「はは、いいな」
「ケバブがちょっと勝ってますね」
「エビは万能調味料みたいなもんだから」
「調味料」
「俺のナンプラーだな!」
ハナはこの後、髪を切る筈だ。
再度プールへ行き、これからの事を考える。
魔道具、魔法に戦闘訓練。
迂闊に先取る事に不安も有る、先程の様にあまりにも先読みしても怪しまれる。
明日は、明日はエミールか。
そして魔王のホムンクルス計画を聞かされる。
俺が、ソレをすべきかどうか。
《ほうほう、知恵熱が出そうな顔じゃのぅ》
「運命を捻じ曲げると、代償を払う事になるのだろう」
《しかも、誰が払うかも選べん》
「何を運命と断定するんだ?」
《さぁ?》
「はぁ」
《ただまぁ、運命の女神は居るぞぃ》
「会いに行きたい、魔王を呼び。いや、アクトゥリアン」
【はいはい】
《ほう》
「力を貸してくれ」
【はいな!】
運命の女神に会いに。
ローマの世界樹へ、ココではカルメンタとエゲリアに会えたが。
《運命なんてその時々よ、ねぇエゲリア》
『そうですね、まして運命を教えるには』
「対価か」
《ふふっ、分かっていても手を出せない歯痒さが、少しは分かってくれるかしら》
『意地悪ね』
《だって女の子じゃ無いんですもの》
『もう、ごめんなさいね』
「いや、突然来て済まなかった。もしハナが」
《それは大丈夫、だって女の子なんですもの》
『それはそう。本当、ごめんなさいね』
「いや、コチラこそすまなかった」
対価。
渡せる程の髪も無い、神々を喜ばせられる程の何かしらの技量も。
精々、片方の腎臓程度か。
守るモノが有ると、対価すら渡せない。
『大丈夫?』
「アナタは」
『うん、ロキだけど。誰なのかな?』
「召喚者、李 武光だ。助けて欲しい」
『良いけど、対価は?』
また、またココでも対価。
だが、コイツに対価は。
「それは、ヘル神に許可を得た方が良いのでは」
『あれー、バレちゃってるかぁ、だよねぇ』
「渡したいのは山々なんだが、俺にはそう渡せるモノが無くてな」
『ソレとか有るじゃない』
「卵はダメだ、いずれハナを支えるモノになる筈だ」
『んー、片目』
「戻った際に必要なんでな」
『じゃあ難しいよねぇ、あ、何かの経験はどうかな』
「そう教えられる事は」
『違う違う、後ろの処女とか』
「は」
『あ、俺にじゃないよ、君みたいなのは興味無いし』
「あ、いや、すまない。少し動揺した、アナタは良い神様だったな」
『えー、そんな褒めてくれちゃう?』
「あぁ、子供思いの良い神様だと思うぞ」
『へへー、しょうがないなぁ。何で悩んでるかは聞いてあげる』
「俺は、何を対価に差し出せるか」
『んー、君を良く知らないからなぁ』
「子供と婚約者が待っている、帰還を望む召喚者。
『なら、思い出とか、その処女とか。その子と離れるとか』
「離れるのは、構わない。常に側に居れば守れると言うワケでも無いんだしな」
『それじゃあダメなんだよ、神々だけじゃなく精霊や妖精までもが、人の機微が大好物なんだから』
「そうか、俺の執着するモノが対価か」
『例えばの話しだけどね。そんなに良い子なの?』
「アナタがどう思うかは分からないが、俺にとっては良い子だ」
『ならその子の情報かな』
「成程」
『あー、知りたかったのになぁ』
「下手にハードルを上げ下げしたく無いんでな、ただ、人が良いとだけは教えておく」
『そっか、ありがとう。じゃあね』
にしても、俺の処女か。
そうか、まして女体化すれば3つは対価に出来るな。
ふむ、少し調べておくべきか。
プールに戻り房中術を調べてみるに、下準備が大変そうだが。
ココには、便利な道具でも有るんだろうか。
「よし、もう部屋に戻っても大丈夫だろうか」
《じゃの、良く寝ておる》
武光さんから何を聞かれるのかと思えば、男性同士の行為用の道具。
いや、全然知らないんですけど。
「すみません、そう言った事はちょっと」
「そうか、そう偏見の無い世界と聞いたんだが」
「僕は一応、女性が好きなので」
「ふむ、何故そう言い切れるんだ?」
「もし万が一する場合は、男性より女性かなと」
「好きになった事は有るのか?」
「いえ」
「ハナはどうなんだ?」
「そんな風に」
「もしハナがお前に惚れてもか」
「その時は、その時に」
「人相学で出ていただろう、直感的で繊細なんだ。お前に気が無いと分かった瞬間に、秒で諦めかねないんだぞ」
「それも、その時で」
「心得はどうした」
「どうしてそれを」
「無理矢理吐かせた」
「ですが僕は」
「ハナの何がダメなんだ?」
「いや、全然、ダメとかは」
あぁ、気持ちに気付くタイミングを早めてしまったか。
すまん。
「すまん、つい
「いえ」
「俺ら召喚者は最前線に行く可能性が有る、戦でも災害でもだ。もし、そこでハナが死んでしまったとして、思いすら通じ合わないままで居て欲しく無いんだ」
「いずれは、桜木さんにも大事な方が出来るかもですが。僕は、外見に自信は有りませんし」
お前もか、お前もなのか。
「外見だけで選ぶと思うか?」
「人相学の時に、面食いだって仰ってましたし」
「だからと言って、お前が除外されてはいないだろう」
「いや、そう言われて無いだけで。お優しい方ですし」
お前もか、どうしてそう、残念な部分が似ている。
「ふふ、アレも自信が無さそうで。お前もか」
「すみません」
「いや、すまなかった。全ては例え話だ、ただ自信が無いからと言って身を引く事を考えるのは困る。逆の立場なら、寂しい、嬉しく無いと思わないか?」
「逆の立場って、難しいですよね」
「そうだな、まぁじっくり考えてくれ。俺はお前を気に入っているんだ、おやすみ」
「はい」
嵐の様な質問責めが終わったかと思うと、今度は魔王がコチラを見ている。
「あのー、少し聞こえちゃったんですけど、ちょっと良いですか?」
「あぁ、はい」
「その、心得ってなんですかね?」
「心身共に楔になれ、引き留め、繋ぎ止めろって。格言みたいなのが有るんです」
「あぁ、純粋に思われちゃった後に知ったら、国の命令だったのかと裏切られた気持ちになりそうですね」
「そうですね、それは想像が付きます。だけど」
「逆の立場は難しい」
「ですね…あの女性の方は」
「どう好きだったかまでは分からないんですよね、性的な行為も無かったですし、成熟度もまだまだでしたし。ただ、落ち着くとか安心するとか、そんな感じだったと思います」
「もし生きてたら」
「希望的観測ですが。多分、こうはなって無かったかも知れませんね」
もしコレが本当なら、魔王を魔王にしたのは人間。
そしてコレを認めなかったのは、誰なんだろうか。
僕ですら考え付くのに。
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