第12話

 カーリーは森から薬草を持ち帰ると、キッチンに入った。

 そして、ハイポーション作りを始めた。

 白い薬草を煮てエキスを取り出し緑の薬草をすりつぶした物と混ぜ、最後に魔力を注入する。薬草さえ揃えば、魔力のあるカーリーにとって、ハイポーション作りは難しくは無かった。


「さあ、できました。これで完成ですね」

 カーリーは出来上がった白緑色の液体を、二つの水筒に詰めた。

「これを二日寝かせれば、味も落ち着くはず……」

 一口だけカーリーが出来上がったハイポーションを飲んでみると、苦みが強かった。そこで蜂蜜と水を足してみたら、少し飲みやすくなった。ハイポーションを飲んだ後は、なんだか体が軽くなるのを感じた。


「きっと、効いているのですね。味も……我慢できないほどではなくなりましたし」

 カーリーはハイポーションが、チャーリーの病気にも効くと良いなと思った。

「さあ、今日はここまで。週末が楽しみですわ」

 カーリーはハイポーションの入った水筒を自分の部屋に持っていった。


 ガレシア家を訪問する日になった。

「さあ、今日はハイポーションと本を持っていきましょう」

 カーリーは事前に、ガルシア家へ行くことを両親に話してあった。

「カーリー、アレス様に失礼の無いよう気をつけるのですよ」

「チャーリー様にもご挨拶するように」

「はい、お父様、お母様」


 カーリーは馬車に乗りガルシア家に向かった。

 鞄の中には本と水筒が入っていて、少し重かった。

 ガルシア家に着くと、アレスが出迎えてくれた。

「カーリー様、お待ちしておりました」

「アレス様、森ではありがとうございました」

「いえ、兄上のためとはいえ、あまり無茶はしないでください。カーリー様」


 カーリーは少し怒ったようなアレスの表情を見て、気持ちが暗くなった。

「……チャーリー様のことを考えていたら、いつの間にか夢中になっていただけです……」

「何か言ったか?」

 アレスはカーリーを見て、手を伸ばした。

「きゃっ!?」

 アレスは驚いて身構えたカーリーの手元から、鞄を取り上げた。


「お持ちしよう。……ずいぶん重い鞄だな」

「ええ、ハイポーションと本が入っておりますから……」

 そこまで言って、カーリーは後悔していた。

「アレス様にも、なにかプレゼントをお持ちすれば良かった……」


 アレスはチャーリーの部屋に向かって歩いて行った。

「兄上、カーリー様がお見えになりました」

「……どうぞ」

 ドアを開けると、チャーリーはベットで本を読んでいた。

「やあ、こんにちは。カーリー様」

「お久しぶりです。チャーリー様。今日はハイポーションと本をお持ちしました」


「まずは、毒味からだな」

「アレス、その言い方はやめるように言ったはずですよ」

 チャーリーが困ったように眉をひそめた。

「一口いただきます」

「はい……」


 アレスは水筒に入っているハイポーションをコップに入れ一口飲んだ。

 カーリーは心配そうにその様子を見ている。

「……苦いですが、甘みもあって爽やかさもある……飲めない味ではないな」

「アレス、ハイポーションは高価で中々手に入らない物なのに、その言い方は失礼ですよ?」

 チャーリーがたしなめた。


「体に変化はありませんか?」

 カーリーの問いかけにアレスは返答した。

「そういえば、剣の練習の際に出来た怪我が治ったようだ」

「剣の練習?」

「ああ、来月の終わりに、この国で剣の大会が行われる。優勝者は王に、何でも願い事を一つ聞いて貰えるそうだ」


「そうなんですか!? では、秘伝の魔法と薬草の本の閲覧も許されるのですか?」

 アレスは興奮しているカーリーを不思議そうに眺めている。

「まあ、優勝すれば……見られるだろう」

「そうですか! その本には魔女の呪いの解き方も書かれているという話です」

「なんだと!? では、優勝するしかないな……」

 盛り上がるアレスとカーリーを見て、チャーリーは苦笑した。


「……アレス。無理はしないでくれ」

 チャーリーの言葉を無視して、アレスは言った。

「兄上、待っていて下さい」

「アレス様、頑張って下さい」

 カーリーはアレスに希望の光を見いだした気持ちになっていた。


「えっと、盛り上がっているところ申し訳ないんだけれど……私にも、なにかできることはあるかな?」

 チャーリーが遠慮がちに、アレスとカーリーに聞いた。

「チャーリー様は、一日に一杯、ハイポーションを飲んで下さい。ある程度までは体が治っていくと思います」

 カーリーは、そういうと二本の水筒をチャーリーに渡した。


「私に今できるのは、ハイポーションを作ることだけでした。申し訳ありません」

 チャーリーは水筒を受け取り、微笑んだ。

「十分です。ありがとうございます、カーリー様」

「チャーリー様……」

 カーリーは、チャーリーの優しい表情に見とれていた。


「では、私はこれで。お二人の時間を邪魔するのも何ですから」

 アレスは部屋を出て行こうとした。

「まってください、アレス様」

 カーリーは赤い顔をして、アレスを追いかけた。

「カーリー様は優しい方ですね」


 チャーリーはハイポーションを一口飲んで顔をしかめた。

「……これは個性的な味がします」

 コップに一杯分のハイポーションを飲み終えると、チャーリーはベッドに腰をかけ、カーリーの持ってきた新しい本を手に取った。

「今回は恋愛小説ですか……」

 チャーリーは少し笑って、本を開いた。

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