第11話

 夜が明けたばかりのまだ薄暗い時間に、カーリーは家を抜け出し森に向かった。

「白い葉の薬草は、森の奥の川縁に生えていたはず」

 カーリーは採取した薬草を入れる袋と、護身用のナイフを鞄にしまい、一人森の中を進んでいく。

 森の奥の川辺につくと、カーリーは薬草を探し始めた。


「これとこれ……あ、あっちに白い葉がみえるわ」

 カーリーは川上に向かって歩きながら薬草を摘んでいった。

 しばらく採取を続けていると、獣の唸る声が聞こえた。

「……!? 山犬だわ……どうしましょう……」

 カーリーは木の陰に身を隠したが、山犬が近づいてきた。


「ガゥゥッ!!」

「きゃあ!」

 山犬がカーリーに襲いかかった瞬間、何かが山犬の胴体を打った。

「キャウウン」

 山犬は走って逃げていった。

「助かった……」

 カーリーが腰を抜かして座り込んでいると、日に焼けた手が差し出された。


「こんなところでなにをしていたんだ? カーリー様」

「……アレス様」

 カーリーはアレスの手をとって立ち上がった。

「薬草を摘んでいたらこんな所まで来ていました。……アレス様こそ、何をされていたんですか?」


 アレスは剣をしまい、言った。

「剣の稽古だ。この辺りには弱い魔物や野犬もでるから、良い腕試しになる」

「そうですか、助けて下さってありがとうございます」

 

 カーリーがアレスに微笑んで言うと、アレスは顔を背けた。その耳がすこし、赤く染まっていたことにカーリーは気付かなかった。

「薬草取りか。手伝うぞ?」

「それでは、袋の中にあるのと同じ薬草を採っていただけると助かります」

「……分かった」


 二人は無言で薬草を摘んだ。

 袋が一杯になったところで、カーリーが言った。

「もうこれで十分です。ありがとうございました、アレス様」

「……今度から森に来るときは俺に声をかけろ。……一応、婚約者だからな」

「一応なんて……」

 カーリーは何と言えば良いか分からないまま、先を歩くアレスの後について森を出た。


「アレス様」

「何だ? カーリー様?」

「また、今週末にガレシア家におじゃましてもよろしいですか?」

「……ああ、兄上も喜ぶだろうしな」

 カーリーはチャーリーの笑顔を思い出し、頬を染めた。

「……それでは、気をつけて帰るように。カーリー様」


「はい、アレス様。チャーリー様にもよろしくお伝え下さいませ」

 カーリーが去って行くと、アレスは呟いた。

「婚約者、か……。兄上に会いたいだけだろうが……」

 アレスは何故か痛む胸に、苛立ちを覚えた。

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