第4話
被害者達はいずれも同じ学校に通っている高校生達だった。遺族や教師、仲の良かった他の生徒達に聞き込みをしても、学校での態度や成績に特に問題は無かったと皆が口を揃えて言う。不思議なのはそんな真面目な生徒達が犯行に遭った日、なぜあんな治安の悪い場所にしかも深夜に集まったのかだ。LINEやSNSをいくら調べても、待ち合わせをしているようなやりとりが一切ない。これは適合者の能力に操られていた可能性が高いが、肝心の真犯人の情報が無い。被害者達に恨みを持つ人間が見つからないのだ。
「参ったね、こりゃ」
中島は被害者達の高校の近くにある公園で昼食をとりながら一人つぶやいた。サラリーマンやOLばかりのビジネス街近くの公園と違って住宅街近くにある公園は主婦や子供が多い。こんな真昼間にスーツの中年男性は目立つ。ただサンドイッチを頬ばっているだけの中島に向けられる視線も冷たく不審者扱いだ。
こういった時、中島は年を取るというのが嫌なものだとつくづく感じる。子供の多い公園に独身中年の居場所はないのだ。さっさと立ち去ろうとしたが、満腹感と連日の徹夜作業、暖かい日差しが中島を眠りに誘った。
「警告したよな?」
うつらうつらしながらまどろんでいる中島に突然冷たく殺意に満ちた声が聞こえた。見上げると、見知らぬ男がナイフで斬りかかってきていた。中島の意識はまだ混濁している。よけられずに右の額から左の頬まで斜めに一気に裂けた。
中島は目の前の男を蹴り飛ばす。起きあがろうとする男の左手を蹴り上げる。持っていたナイフが手から離れ、見ていた主婦達から悲鳴が上がった。中島は暴れる男を組み敷いて手錠をかける。すぐさま署に連絡しようと携帯を手にしたその瞬間、後頭部に痛みが走った。振り向くと金属バットや何かしらの凶器を握りしめている男達。
「おいおい、マジかよ」
中島は横っ飛びに身を滑らせ、男達の囲いから抜け出すと一目散に駆け出した。いくら適合者ではない一般人だとしても、殺すことにためらいのない人間5人を相手に制圧できる自信はなかった。男達のいた場所を振り返ると、後を追ってくる様子はない。中島が手錠をかけた男の回収を優先しているようだった。
「こちら中島警部補。N区
スマホに怒鳴りつけるように叫ぶと、中島はニカの通う女子校へ向かった。まさか自分が40を過ぎてから女子高生に助けを求める人生を送るとは思っていなかったと
足を止めることなく走り続けていたが、中島がタバコを吸うようになってからもう25年以上たつ。心肺機能はとっくにダメになっているし、全身が悲鳴を上げている。もういいだろうと歩き始め、近くでパトカーを見つけたので呼び止める。だが、呼び止めたパトカーの中から出てきた警察官は中島に銃口を向けた。
「冗談じゃねえぞ!」
怒鳴ってはいたがほぼ悲鳴に近い。中島は慌てて身を伏せながら、まだ真犯人の適合者は自分を追っていることに恐怖した。能力の射程距離はどれくらいなのか? 誰でも操ることが可能なのか? 相手のことを想像するだけで背中に嫌な汗が流れるようになっていた。
5回の発砲音が鳴り響く。日本の警察官が携帯している銃の装填数は5発で予備弾はない。中島は体を起こし、発砲してきた警察官との戦闘を覚悟していたが、警察官はパトカーに乗り込み走り去っていった。
安心した瞬間に誰かに襲われ続けたせいで恐怖心が拭えない。次は誰が襲ってくるかも分からず、中島は半狂乱になりながらニカの下へと急いだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます